牛丼

平成22年04月11日(日)

 今日のお昼は久しぶりに外で牛丼を食べました。隣の四人掛けのテーブルで、乳飲み子を抱いた若い夫婦が同じように牛丼を注文したところへ、一人の若者が入って来ました。小さな店のどのテーブルも誰かが座っているので、どこに座ろうかと躊躇する若者に、二十代の男性店員が近づいて、

「あの、こちらで相席をお願いします。込み合う時間帯になりますので、ご理解をお願いします」

 夫婦のテーブルを促しました。

 ちょうど食べ終えた私が、

「あ、ここ、空けますから」

 慌てて若者に席を立つと、若者はぴょこんと頭を下げて嬉しそうな表情をしましたが、

「申し訳ありません、こちらで相席をお願いします。込み合う時間帯ですので、ご理解をお願いします」

 男性店員に繰り返されて、すごすごと夫婦のテーブルに座りました。

 レジを待ちながら私は不満でした。込み合う店に入った客が相席を強いられるのは仕方がありませんが、混雑を避けて来店した客が、込み合う時間帯に備えて店員から相席を指示されるのは不合理です。店員は客の気持ちより店の都合を優先させています。赤ん坊を抱いた夫婦と相席では気詰まりだろうし、夫婦も気兼ねだろうと思うから私は気を利かせて席を立ったのです。店員は若者だけでなく、私の親切まで踏みにじっているではありませんか。

 そんな密かな憤懣は顔に出ていたのでしょうか、

「お客様、お席の気を遣って頂いて有り難うございます。ご親切に感謝いたします」

 年輩の女性店員が愛想良くそう言いながらレジにやって来ました。それに呼応するように、

「込み合う時間帯ですので、ご理解をお願いします」

 先ほどの男性店員の録音のような声がしました。心のこもらない接客というものは気分の悪いものですね。年輩の店員は本当に私の気遣いに感謝しているのなら、

「お客様、せっかく空けて下さったのですから、こちらのテーブルをお使いくださいませ、込み合って参りましたら相席をお願いします」

 と言えばいいのです。それを言わないところをみると、彼女も男性店員と同じ考えなのでしょう。いえ、ひょっとすると、

「十一時半を回ったらお客様にはできるだけ詰めていただくのよ、グループのお客様は、一緒に座るテーブルがないと余所の店に行ってしまうからね」

 と男性店員を教育しているのかも知れません。

 おいしい牛丼に髪の毛が一本入っていたような不愉快さを感じて店を出る私の後ろで、

「有り難うございました。またご来店下さいませ」

 というひどく明るい声が響きました。