地震速報

平成23年07月06日(水)

 家のテレビでのんびり映画を観ていると、友人からメールが届きました。

『昨日からまた父と北海道に来ています。ラベンダーは少し早くてまだ花畑は緑です。あまり乗り気のしなかった旅行でしたが、天気に恵まれて楽しんでいます。富良野を後にして、今晩は道北にある、おんねゆ温泉で湯治をします。明日アングルの良い写メが撮れたら送りますね』

 親が人生の終盤を迎えているのは私も同じですが、忙しくしていて、顔を見に故郷に帰るのもままならない私と違って、友人はせっせと父娘で旅行をしています。

 何よりの親孝行ですね…とメールを返信しようとした時、テレビ画面に地震速報が流れました。

 震源地は北海道の十勝沖です。

 メールの文面が一変しました。

『地震、だいじょうぶでしたか?たった今、十勝沖を震源とする地震速報が流れましたよ』

『全然気付きませんでした。だいじょうぶですよ。ご心配していただいてありがとうございます』

 ほっとする一方で、人間の運命というものについて考えました。

 親孝行のつもりで息子が送った旅行クーポンで温泉に出かけた母親が、露天風呂で転倒して死亡した事故がありました。

 車で出勤する夫を、交通事故に気をつけてねと送り出した家に居眠りのダンプカーが突っ込んで妻が死亡したニュースがありました。

 信心深いお婆さんが上げたお灯明が倒れて、焼け跡から本人の遺体が発見された火事がありました。

 わが身の過ぎ越し方を振り返ってみても一寸先は闇の世の中で、とにかく友人は無事に北海道を旅行し、私はこうして平和にテレビを観ています。それだけで十分感謝に値する奇跡であると感じられる年齢になりました。

 映画を観終えた私は、リモコンの停止ボタンを押しました。

 その瞬間に頭の中に閃光が走りました。

 観ていたのは先週録画した映画です…ということは、流れた地震速報も先週のものではありませんか。

 黙っている訳にも行かず、謝罪を兼ねて私が送った真相を伝えるメールは、友人の北海道旅行の愉快な思い出になったに違いありません。