父の日

平成27年06月04日(木)

 振り込みの用事があって出向いた郵便局には、壁のラックにたくさんの食品のパンフレットが並んでいました。まだ5月だというのに、複数の有名デパートのお中元商品を特集したパンフレットがありました。季節感溢れる全国各地のグルメ食品を掲載したパンフレットもありました。あらかじめ選んでおけば、毎月異なる都道府県の特産品が届く会員制のパンフレットもありました。なにしろ直接店に行かなくても窓口で申込みさえすれば、気に入ったものを手頃な値段で、どこへでも送ることが出来るのが郵便局の魅力です。目移りがしてなかなか商品が決められない私のようなタイプにとっては、品物の溢れるデパートなどよりも、限られたパンフレットの中からこれはと思う商品を衝動的に申し込む方が性に合っています。郵便局もそういう客をターゲットにして、様々なパンフレットを目に付く場所に置いているのでしょう。

 目的の振込み手続きが終るのを待つ間、いくつかのパンフレットをパラパラとめくるうちに、真空パックに入った美味しそうなエビの塩茹でが目に留まりました。値段も手頃です。咄嗟に東京の娘と息子に送ってやろうと思いました。二人とも食べ物の好みは父親の私に似ています。私が食べたいと思うものは、きっと気に入るに違いありません。思いがけない時に、思いがけない物が届くのは嬉しいものです。

『お父さん、美味しそうなエビの塩茹でが届いたよ。今夜は早速、夫婦でビールを飲む計画です。いつもありがとう』

 名古屋駅から新幹線に乗れば、東京など簡単に行かれる距離なのですが、お互いに生活に追われて、盆暮れに顔を合わせるのもままならなくなってしまった子供たちから、こんなメールが届くのが、送った側の楽しみなのです。

 郵便局が残念なのは。申し込んでから商品が届くのに十日近くかかることです。ネットで購入すれば、翌日届くのが当たり前になって来た時代に、何と悠長なことかと思いますが、郵便局は商品の仲介をしているに過ぎません。それに民間会社になったとは言え、元はと言えばお役所ですから、色々と組織の事務処理があるのかも知れません。

 待つことしばし…はしかし限界を超えました。申し込んでからひと月になろうとするというのに、子供たちからは何の反応もありません。いつもなら届けばその日のうちに電話かメールで喜びの連絡があるはずです。忙しい年齢になったのでしょうが、父親に感謝の一言を伝える労を惜しむのかと思うと腹立たしい気持ちになります。一方で、勝手にものを送っておいて感謝を期待する私の方が間違っているような気もします。送る側の気まぐれな気持ちと同様に、受け取った側も、機会があればお礼を言おうぐらいの気持ちでいる軽々とした関係こそ理想的な親子というもののように思えてもくるのです。

 しかし、郵便局の手違いで品物が届いていなかったとしたらどうでしょう。子供たちに腹を立てたり、そんな自分を反省したりして過ごしたこのひと月は滑稽な時間になってしまいます。申し込むときに配達結果通知を不要にしたことを後悔しました。こうなれば、郵便局に配送状況を確かめるか、子供たちに届いたかどうか聞く以外に方法はありませんが、郵便局から、もう随分前に届いていますよと言われた場合は、子供たちに対する失望は決定的になってしまいます。