:::::19世紀のメリークリスマス:::::

 今年のクリスマスにはツリーを飾りましたか? うちにはありません。部屋がとっても狭いのでスペースがないのです。ただ、なんとしてでもケーキを食べるのだけは死守したいと思います。縁起物ですから。
 ツリーを飾る習慣は、アルバート公が英国に持ち込み、ヴィクトリア女王一家が広めたのだそうです。そこからディケンズの『クリスマス・キャロル』の描写は生まれ、映画になり、今でもケーブルテレビや衛星放送で毎年見られるというわけですね。今年になっても無事見ることができました。小さなころ、白黒のこの映画を見て「強欲爺さんが自分の末路を見る」という展開に震え上がったのをよく覚えています。そして今見返すと、……あれ? もうそんなに怖くありません。「七面鳥やガチョウ、ソーセージ、リンゴ、ミカン、梨」……ごちそうのあれこれやパーティーの習慣、生活の描写が気になって気になって、怖がっている場合ではありません(笑)目を皿のようにして見てしまいます。
 “今”のクリスマスの精が連れていってくれた、貧しくも暖かい一家のクリスマスパーティー。家族が集まってプディングを切り分けているシーンが出てきます。(昔はチョコレートケーキだと思い込んでいたんですが、あれがプディングってやつなんですよね。)ドライフルーツたっぷり、卵とパン粉と砂糖と牛脂で固めたクリスマスプディング。使い込まれたプディング布から取り出すと「洗濯屋のようなにおいがした」らしいですが、幸せそうにテーブルを囲む家族の様子を見ていると、なぜかとってもおいしそうに感じますね。強欲爺さんでなくても改心しようってものです。そして、おかあさんは遠慮してひと口しか食べません。食事が終わったらワインに砂糖を入れて甘くしたパンチをみんなに注ぎ分けて乾杯し、暖炉で栗を焼きます。
 うー、なんか書いてるうちにどんどんお腹がすいてきましたので小休止。
 ………………。
 再開!
 さて、ご家族がパーティーをしていたころ、使用人はどうしていたでしょうか。自分たちの質素なクリスマスディナーをやっつけて、キャロルが聴こえてくるパーティー会場の、となりの部屋で働かされ、楽しそうにパイの中に仕込んだコインを当てる様子などを横目に「でも使用人は別に楽しくなんかなかった。」なんて不満顔です。それでもやっぱり浮き足立ったような雰囲気はあって、半地下だったりして薄暗いキッチンにも緑のリースが飾られます。訪問客は、みんな年に一度のお祭りに気が大きくなっているので、客の前に出る部署の使用人にとっては、チップのかせぎ時でもあります。
 そして本番は翌日、26日のボクシングデー。御主人から使用人や箱入りのプレゼントが渡されます。14歳の時に働き始めたあるメイドは、奉公先で迎える最初のクリスマスを楽しそうに振り返っています。
 「奥様がベルでわたしを呼び、大きなツリーからプレゼントを取って渡してくださいました。あの時の気持ちは忘れられません。キッチンに駆け込んで、輝くリボンで綺麗にラッピングされたわたしのプレゼントボックスを開けると……2枚の仕事用エプロンが入っていたんです!」
 プレゼントがエプロンというのはちょっとどうかと思いますが、初々しい彼女はかなり喜んだようです。しかしちっとも喜んでくれない子もいますので、御主人・奥様志望のみなさんには注意が必要です。
 「(中に入っていたのは)とんでもないどピンク色のコットンのドレス生地でした。−−午前中の制服にしなさいということです。でも結局、その趣味の悪い生地を、わたしは決して着なかったし、仕立てすらしませんでした。」
 こちらは1925年の証言ですから、だいぶ知恵がついて口が悪くなっているのかもしれませんが、……なんというか、しおらしく奥様のお言いつけを守るフリをしながら、背後では舌を出しているような彼女たちの姿が目に浮かびますね。そもそも前世紀までは、クリスマスに限らずお祭りの時は、身分の差があいまいになってどんちゃん騒ぎをする格好の機会だったようです。そんな盛り上がりは、ボクシングデーの夜か、1月6日の「十二夜」のパーティーに続くわけですね。
 近所のデリで買ってきたケーキを食べる時間です。私が。
 森薫さんの『エマ』3巻のクライマックスにもなっている、パーティーのお話は、また別の機会に。

2003.12.24
参考文献:セドリック・ディケンズ『ディケンズとディナーを』
Pamela Horn『Rise and Fall of the Victorian Servant』


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