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青い封筒ありますか?(2)
令和03年09月19日(日)
再びかかって来たときは、担当者は言いにくそうに、
「あの…大変申し訳ありませんが、全国にまだ200台しかないATMですので、すべての支店には設置されてはいない状況でして…ご希望の東支店では残念ながらお手続きができません。お調べしたら大曽根支店であればお手続きが可能ですが、お近くですか?」
「ええ、それでしたら東支店より近くですが…」
「ではそちらでお手続きということでよろしかったですか?」
「はい。お願いします」
「何時頃お手続きなさいますか?」
「自転車で行けますから、早速出かけようと思いますが…」
「そうですか。ご用意頂くものはお分かりですね?」
「保険証と身分証明書と通帳とキャッシュカードですね?」
「はい、そうです。では、大曽根支店に到着したらこの番号にお電話を下さい。操作をご案内致します。だいたい何時頃になりますか?」
「そうですね、11時15分ではいかがでしょうか?」
「結構です。お電話をお待ちしています」
と、さすがにこの段階で、私は一連の電話が振り込め詐欺であることを確信しました。大曽根支店と言えば、銀行の統廃合で、ATMコーナーだけが残っている無人の銀行ではありませんか。全国で200台という貴重な機種が、東支店という大きな支店に配置されなくて、無人のコーナーに設置されているなんて不自然です。携帯電話の指示に従ってATMを操作する高齢者を怪しんで、行員が声をかける事態を避けるために、無人のATMコーナーを指定したのでしょう。ということは、詐欺グループの拠点がどこにあるのかは分かりませんが、彼らは騙す相手の近辺にある無人のATMコーナーの所在を把握しているということになります。入手した個人情報の名簿からランダムに電話をかけているのでしょうから、恐るべき情報収集力と言わねばなりません。
私は別に区役所の保険年金課の番号を調べて電話をし、保険点数の改訂も累積医療費の払い戻しも存在しないことを確認すると、続いて110番に電話して状況を通報しました。
情報として聞き置くだけかと思ったら、
「すぐに担当の刑事を派遣しますのでお待ち下さい」
驚くことに、間もなく私のマンションに四十代と思しき私服の刑事が訪ねて来て、ドラマでお馴染みの上下2つに折れる警察手帳を見せて言いました。
「通報、有難うございます。間違いなく振り込め詐欺の電話だと思います。ついては、これは強制ではありませんが、騙されたふりをして振り込め詐欺防止に協力して頂く訳には参りませんか?振込画面に詐欺グループの口座が表示されるところまでは指示通りATMを操作して頂きたいのです。私が口座を写真に撮ったら電話を切って頂いて構いませんから」
もちろん市民として防犯への協力を断る理由はありません。ただ相手に私の固定電話と携帯番号を知られていますので、報復が心配だと言うと、
「相手の口座画面を写真に撮った時点で、私がたまたま隣のATMにいた客を装いましょう。あんた、それ振り込め詐欺じゃないですか?と相手に聞こえるように大声で注意しますから、何をするんですか、医療費を戻してもらう手続きをしているんですよとか何とか言いながら電話を代わって下さい。あとは私が対応します」
「なるほど」
私は刑事の運転する乗用車に乗り込んで大曽根支店に向かいました。