彼女、結婚してるのか?

平成31年05月17日(金)

 こんなこともありました。

 クラスの学生をいくつかのグループに分けて演習を行うに当たり、できるだけ多様なメンバーでグループを構成するよう指示をして、あとは学生に任せました。民主的に話し合って全員の合意を取り付けながらグループを編成する作業そのものが演習の目的の一つなのです。立候補した進行役の下に、まずは多様性の項目が話し合われました。性別、年齢別、地域別、職業別、配偶者の有無、子供の有無など、様々な項目が挙げられましたが、

「女性を年齢別に分けるのは問題ではないでしょうか?」

「配偶者や子供の有無を答えるのも抵抗があると思います」

「職業を聞くのは差し障りませんか?」

「しかし、性別と地域別で多様性と言えるでしょうか?」

「無作為に割り振れば結果的に多様になるのではありませんか?」

「それじゃくじを作りますか」

「それが一番良さそうですね」

 もはやオープンにしていい個人の情報は、性別と、住んでいる地域程度になったのですね。

 そうなると、互いを傷つけない安全な情報交換を卒なく行うことが社交の技術になって行きます。

「この前、家電量販店で気に入ったトースターを見つけた若いカップルがね、店員さんから散々説明を聞いたあとで、スマホを出して、アマゾンで注文するのを見たけど、店員さんは可哀そうよね」

「わかるわかる、でも同じ物でもアマゾンの方が安い場合があるからね」

「それにプライム会員だと無料で届けてくれるから便利だよ、うちはたいていアマゾンだね」

「そうなると、これからは家電量販店は苦労だぞ」

 と、こんな会話をしていれば誰も傷つきません。

 そして長年同じ職場に勤務して、忘年会や新年会で酒を酌み交わし、カラオケで一緒に歌った女性が退職するに当たり、

「ところで彼女、結婚してるのか?」

「いや、そこまでは知らないよ」

「ずっと謎だよね」

「庶務係長、どうなんだ?」

「個人情報だから俺からは言えないよ。本人が言わないということは、知られたくないんだろう」

 などと小声でささやきながら、送別の花束が贈呈されるのです。