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ナマズ先生2(老いの風景シリーズ)
ナマズ先生こと浜津先生は、缶ビールを二本空け、チューハイをお代わりした頃から饒舌になった。
「いい!君たちは実にいい!」
自由だからなあ…と言ったかと思うと、
「可哀そうだ!君たちは実に可哀そうだ!」
自由だからなあ…と言った。
「先生、自由ということは、いいことなのですか、それとも可哀そうなことなのですか」
先生以上に酔っ払った篤志がからむと、
「バカ、そういうことは自分のここで考えるんだ」
ナマズ先生は自分の頭を人差し指でチョンチョンとつついてふらりと立ち上がり、台所から吟醸の一升瓶をさげて戻って来て、
「酒はいくらでもある」
五人の顔に向かってニカッと笑った。
「先生、一升瓶からは飲めないでしょう」
徹が台所からコップを人数分持って来た。
「いいなあ。君たちは実にいい」
ナマズ先生は徹の配ったコップになみなみと日本酒を注いだ。
「そうだ、野球どうなった?」
光男がテレビのスイッチを入れた。
「君たちは実に可哀そうだ」
ナマズ先生は光男からリモコンを奪うと、ピストルで敵を撃つようなしぐさでテレビを消した。
「歌を歌おう、歌を!な?君たち久しぶりに大学の校歌を歌いたまえ」
「知らないよなあ、校歌なんて。先生は歌えるんですか?」
正樹が聞くと、
「わ、私は知らないよ」
泥棒の嫌疑を否定するようなナマズ先生の狼狽ぶりがおかしくて、五人は大声で笑った。
「いいなあ!先生は実にいい!」
達也がナマズ先生の真似をして立ち上がり、これから集まる時はここにしようと提案した。