しいの木と動物たち

平成29年11月25日(土)掲載

「みんな集まっておくれ。上手く行けば、しいの木が助かる方法が一つだけある。みんなの協力が必要なんじゃよ。早く集まっておくれ」

 動物たちはそれを聞いて大喜びでした。山で一番の物知りのフクロウ爺さんの言うことです。いい加減な話ではないはずです。フクロウの爺さんはいつもの癖で、時々首を左右に傾げながら集まった動物たちに言いました。

「みんなよく集まってくれた。うまく行くかどうかは分からないが、たった一つだけ、しいの木を守る方法を思いついたんじゃ。大変な作業になる。今すぐとりかかっても、間に合うかどうか心配なくらいじゃ。詳しい説明をしている時間はないが、とにかく、わしを信じて言う通りにしてもらいたい」

 そして、フクロウ爺さんは動物たちにそれぞれの作業を割り振りました。

 夜明け前で、まだ真っ暗でしたが、動物たちは一斉に動き出しました。

 何百、何千という鳥たちが、まだ薄暗い空に飛び立ちました。

 そして戻って来たときには、みんなそれぞれ一本のワラをくわえていました。

 力のある動物たちは小鳥たちの運んできたワラをトントンと打ちました。

 手先の器用なサルや洗いクマたちは、打ったワラで縄をないました。

 数えきれないほどの縄ができました。

 そんな仕事がまる二日間、夜も寝ないで続けられました。

 三日目の太陽が東の空を真っ赤に染めた頃、仕事はようやく完成しました。

 鳥たちの目は、寝不足で充血していました。クマやサルたちの手の平は、すっかり感覚がなくなっていました。でもみんなそんなことを気にかける余裕はありませんでした。もうすぐしいの木を切りに人間たちがやって来ます。本当にうまく行くかどうか…。あとは祈るしかないのです。

「おおい、来たぞお!人間たちがやって来たぞお!」

 見張りに行っていたスズメたちが報せに来ました。

 動物たちはみんな物陰に隠れてじっと見守りました。

 大勢の木こりたちが手に手に斧を持って山を登って来ました。

 そして思いがけないことが起こりました。

 一番最初にしいの木を見上げた木こりが叫んだのです。

「あれえ、あんなところにしめ縄が巻いてあるだぞ」

 それは不思議な光景でした。天に届くかと思うほどの巨大なしいの木の幹に、今まで誰も見たことがないほど大きくて立派なしめ縄が巻き付けられているのです。しかもとても人間が登って行って巻きつけられるような高さではありません。

 木こりたちはしいの木を見上げたまま口を利きませんでした。中には手を合わせて拝んでいる木こりもありました。やさしくて、たくましくて、とても頼りがいのあるしいの木は、しめ縄を撒きつけられて、より一層堂々として見えました。誰も斧を振るおうとする木こりはありませんでした。

「おら、庄屋様を呼んでくるだ」

 われに返った木こりの一人が山を降りて行きました。

 話を聞いて山を登って来た庄屋様は、しいの木を見上げて言いました。

「不思議なことがあるもんだ。これはきっと神さまの木に違えねえ。切ることはなんねえぞ。これから先、ずっと切ることはなんねえぞ」

 動物たちがどんなに喜んだか、もうお話しする必要はないでしょう。

 しいの木は山のご神木として今もその山のてっぺんにそびえ立っているのです。