7.診察結果(房子Ⅱシリーズ)

 その日陽子の携帯に診察結果の連絡が入ったが、かけて来たのはグループホームの看護師だった。

「ご安心下さい。房子さんは診察室ではしっかりと歩かれましたし、むくみを改善するための利尿剤も処方されました」

「ちょっと待って下さい。この上薬が増えるのですか?それに狭い診察室を歩いたくらいで、歩行の不安定さが分かるのですか?」

 そもそも診察の経緯を考えれば、結果はグループホームの看護師ではなく、直接医師から回答があって然るべきではないか。

「そんなにおっしゃるならご自宅で看られたらどうですか?」

 脅迫めいた看護師の言葉には取り合わず、

「先生と直接お話しする時間を調整してご連絡下さい。それまで利尿剤の投与は見合わせて下さい」

 陽子は電話を切った。予想はしていたが、家族が何と言おうと、医師には服薬を中止して様子を見るつもりはないらしい。

 謙一夫婦は、最悪の事態を覚悟した。陽子から涙ながらの訴えを聞いていながら、一方的な治療方針をグループホームの看護師に説明させる医師の態度に誠意は感じられない。誠意のない医師に処方の変更を迫れば対立は免れない。ホームのオーナーである医師と対立すれば、入居の継続は気まずいものになる。しかし診察結果はどうあれ、このところ感じる房子らしさの明らかな変化は、薬の影響としか思えない。

「今度は息子として俺が医師にきちんと話をする。それにしても一時的に服薬を中断して様子を見るくらいのことがなぜできないのだろう」

 とつぶやく謙一に、

「医者はプライドが高いのよ。素人の私たちが直接やり取りして敵う相手じゃないわ。専門的な理屈を並べ立てられて結局引き下がることになる」

「医者と話せば却って厄介なことになるか…」

「そうだ!大本に聞いてみようよ」

「おおもとって?」

「製薬会社よ」

 陽子の行動は素早かった。ネットで調べた製薬会社の相談窓口に電話して、房子の様子を詳細に伝えた陽子は、興奮して受話器を置いた。

「そんな症状があれば、三か月かけて徐々になんて言ってないで直ちに服薬を中止すべきだって」

「そうか、製薬会社がそう言ってるのなら心強い。医者との話し合いの最後の切り札になる」

 謙一は医師という権威と対決する決意を固めた。

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