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13.面会(房子Ⅱシリーズ)
普通なら申し込んで部屋が空くのを根気よく待たなければならないグループホームだったが、
「たまたま予定の人が入院して入居を断念されました。一度房子さんに面会させて頂いて、問題がなければすぐにでもお引き受けできますよ」
余りのタイミングの良さに管理者である尾藤自身が驚いていた。しかし房子の転居は秘密裏に進んでいる。次のグループホームを探していることを房子のホームの職員はまだ知らないでいる。もちろん隠す必要もないのだが、いきさつがいきさつだけに、正式に転居の日取りが決まるまでは伏せておきたかった。
「平日に外出させて連れて来ましょうか?」
「いや、それよりも陽子さん、今度の日曜日に私を陽子さんの友達にして下さいませんか?」
陽子の友人として一緒に散歩をし、房子の自然な姿を観察したいと言う。つまり尾藤は日曜にわざわざ時間を割いて、隣の県のグループホームまで房子に会いに行くつもりなのだ。もちろん謙一と陽子に異存があろうはずがない。
日曜日は快晴だった。
友達を連れて行くと前日に伝えてあったが、房子はすっかり忘れて戸惑っている。
「私、陽子さんのお友達で尾藤と申します。今日は散歩とお昼をご一緒させて下さいね」
固定的なメンバーに知らない人が一人加わるだけで、会話はこうも弾むものだろうか。
「お土産にして喜ばれるものは何ですか?」
「そうやなあ、ハムと味噌ぐらいかなあ」
「それにしても狭い道ばかりですね」
「狭い道をたくさんクルマがすれ違う」
尾藤の話に房子が応え、散歩はいつになくにぎやかだった。
「うわ!橋からお城がくっきり見えますよ。橋の下には青い川、山の上には真っ白なお城、房子さんの故郷は本当に綺麗な街ですねえ」
尾藤は持参した小型カメラで盛んに写真を撮る。
「住む者には見慣れた景色やけど、他所から来た人にはええところに見えるんやろうな」
一方で尾藤は房子の認知症の程度と性格と歩行能力をさりげなく観察していた。
四人で食事をしたあと、謙一の同級生が経営する喫茶店でお茶を飲んだ。
「よく母さんとこの店に来たね」
「そうやったか?私にはさっぱり覚えがない」
会話をする二人にも尾藤はカメラを向けた。
房子を送り届けた帰りの車で尾藤が言った。
「房子さん、うちでお引き受けできますよ」