22.あとがきⅠ「服薬管理」(房子Ⅱシリーズ)

 グループホームに入居した房子が、恐らくは認知症薬の影響で体調を崩し、新しいグループホームに逃げるように転居するまでを小説形式で描いて来た。将来、家族をグループホームに入居させる可能性のある読者には、グループホームの選び方の参考に、現在高齢者施設のケアワーカーとして働いていたり、居宅のケアマネジャーとして認知症家族の支援に携わっている読者には、仕事の仕方の参考になればと期待している。拙著「認知症ストーリー・ケア」の後日談として書き始めた小説であったが、ここからは書いていて改めて明確になったいくつかの事柄をまとめておこう。

 まずは薬物治療の危険性である。

 考えてみて欲しい。麻薬、覚せい剤の類は、人間のコントロールタワーである脳に悪影響を及ぼすという理由で、使用は犯罪として取締りの対象となる。認知症薬も向精神薬も脳に作用するが、医師が患者に治療として用いる場合にのみ合法となる。なぜ医師にそれだけの権限が与えられているかと言えば、症状の改善に効果のある薬の種類と量を適切に判断できるだけの見識を有するものとして、国家から医師免許が与えられているからである。糖尿病のように検査データによって科学的に病状が明らかになる疾病の場合と違い、認知症患者の場合、投薬の指標になる検査方法がない。医師は患者の症状に応じて薬を処方することになるが、認知症患者の場合、自らの症状を客観視して医師に訴える能力が欠如している一方で、診察室の限られた時間内では、自分の症状を取り繕う能力は保持しているのである。ましてや家族の目の届かないグループホームに入居中となると、本人の症状を観察して正確に医師に伝える役割を担えるのはケアワーカー以外にない。

 帰宅願望があるからメマリーを処方するというのは論外であるが、ケアワーカーは自分の報告が医師にとって重要な判断材料になることを自覚しなければならない。処方された薬剤の効能と副作用については必ず医師のレクチャーを受け、服薬開始後は、日常生活の中で、薬の効果と副作用の有無について注意深く観察する義務がある。看護師が配置されていれば、それは看護師の役割ではあるが、本人と接する機会の多いケアワーカーの協力は不可欠である。認知症の本人は薬を飲んだ事実を忘れてしまう。服薬管理は当然チェック表を用いて厳格に行うべきであるが、そのチェック表に効果と副作用の項目を設けて、服薬の影響についてもチェックをし、医師の判断材料としてフィードバックするシステムが欲しい。

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