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採用面接
令和05年06月12日
「まずかったですね…」
奥原が沈んだ声で言った。
「え?我々に落ち度があったのですか?」
「こういうことはセクハラと同じなのよ」
本人が圧力を感じれば圧力はあったのだという奥原の説明に池内は納得できない。
「しかし、そのこととは無関係に、彼女は面接官全員、低い評価だったのですよ」
「不採用なら抗議すると言っています」
「抗議ってどこへ?」
「まさか人事課に抗議したところで結果が覆らないことは分かるでしょうから、抗議するとしたら市の苦情の窓口か人権擁護の相談機関か…最悪な場合はマスコミでしょうね」
「抗議したらいいじゃないですか!評価表を示して説明すれば理解は得られます」
「評価表こそ本人に関する最大のプライバシーですよ。我々三人が感じた面接時の印象が率直に書いてあるし、私の評価表には弟の件についても触れてあります」
「僕も書きましたが、それに関する記録は消せばいいでしょう」
「記録を消しても事実は変わりません」
「要するに佐島さんは…」
堀川が重い口を開いた。
「他の受験生が同席する場でプライバシーの開示を迫ったことを問題にしています。奥原くんの言う通り、圧力を感じたかどうかは本人の主観ですから、強要したつもりはないと言ったところで意味がありません。弟さんは?と聞いて面接官全員が沈黙すれば、答えざるを得なくなるという受験生の追い詰められた心理について無頓着だったとしたら、面接官としての資質に欠けていると批判されるのが落ちでしょう」
取り扱いを誤るとこれは大変な事態になる…と堀川は腕を組んだ。対外的な問題になれば、ことは面接官の適性だけでは終わらない。
「市の採用方針まで問われ兼ねません」
「マスコミが過去の採用実績を調べて、身内に犯罪者のいる者は誰一人採用されていないことが判明すると、ややこしい問題になりますね」
「彼女が打ち明けさえしなければ何の問題もなく不合格だったのに厄介なことになりました。差別とか人権とかハラスメント問題は、言った者勝ちの世界ですからね」
会議室を包む重苦しい沈黙を破るように、
「年齢が近い私が本人と会って、こちらの誠意を伝えましょうか?顔を見て話せば分かってくれるかも知れません」
紛糾した場面の収拾には自信のある池内が提案したが、
「危険です。会うことで、さらに圧力をかけたと言われ兼ねません。採用するのならともかく、不採用なのに迂闊に会って会話をすれば、火に油を注ぐ結果になりかねませんよ」
「だったら早急に人事課として対策を検討する必要がありますね」
「…」
堀川は黙っている。
課全体の検討に付せば、佐島からの抗議はないにもかかわらず堀川チームの失態は明るみに出る。
「採用するしかありませんね」
堀川の気持ちを察したように奥原が言った。佐島を採用するということは、本来なら採用になるべき受験生が一人落ちることになる。誰もが言い出せないでいた最も不適切で最も安全な案が会議室の空気を凍らせた。
堀川と池内は複雑な表情で奥原主査の冷静な顔を見た。