ハナモゲ族の滅亡

作成時期不明

「困ったやつだ…」

 酋長は不機嫌な顔で腕組みをしたまま、植物のつるでこしらえた大きな椅子にどっかりと腰を下ろしました。するとその耳に用心深い仕草で顔を近づけてギロチンがささやきました。

「弟ぎみのお考えは相変わらずでございますな」

「…」

「聞けば弟ぎみは近頃密かに同じ考えの若者ばかりを集めて何やら穏やかならぬご相談をされている様子…。たとえご兄弟といえども今のうちに何とかしなければ大変なことになりかねませんぞ」

「ふむ…」

 酋長は短くうなずいて溜め息をつきました。確かにギロチンの言うとおりです。ポコペンがこれ以上仲間を増やし、公然と自分のやり方に反対を始めれば、兵士たちの間で動揺が起きるのは目に見えています。

「さて、どうしたものか…」

 腕組みをしたままで酋長がその顔を窓に向けると、ハオー!ハオー!という兵士たちの力強い叫び声とともに、たくさんのヤリが四角い窓を横切りました。

 * * * * *

「まったく兄上は話しにならん!」

 その夜ポコペンは、自分の小屋に何人かの仲間たちを集めて興奮していました。

「力で守る平和など価値のないものだということが兄にはどうしても理解できぬらしい。本当の平和とは、まず武器を捨て、戦いとは縁のない暮らしを始めるところから築いてゆくべきものだ。それがまたしても兵士の数を増やしたと聞いては、あきれてものも言えぬではないか」

「おっしゃるとおりでございます」

 ポコペンの仲間たちの中でもとりわけ信頼の厚いニコチンという年長の男がすっくと立ち上がって言いました。

「力で守る平和が力で崩れることはこれまでの歴史を見ても明らかでございます。今こそポコペン様を中心に、真の平和に目覚めた者たちの力を一つに集め、愚かな繰り返しを改める時でございましょう」

「そうだ!」

「そのとおりだ!」

 みんなも口々に叫んで立ち上がりました。

 すると、それを待っていたかのようにニコチンは高々とこぶしを振り上げて言いました。

「そのためには我々はもはや酋長と戦うことも恐れてはなりません!」

「そうだ!」

「そのとおりだ!」

 みんなもこぶしを振り上げて決意を示しました。

「し、しかしニコチン、戦いに反対する我々が兄にいくさを挑むのは結局兄と同じ過ちを犯すことになるのではないか?」

 意外なことの成り行きと、酋長を倒すという、これまで誰も口にしなかった言葉の響きにうろたえたポコペンは、目を皿のように見開いて言いました。

「いいえ、それは違います。我々が酋長を倒すのは平和を勝ち取るための正義の戦いでございます。勝てばポコペン様を新しい酋長に仰ぎ、一本残らずヤリを焼き捨てて、内にも外にも永久の平和を宣言するのです。それともポコペン様はあの頑固な兄上の考えをくつがえす自身がおありですか?」

 ニコチンの言葉には逆らうことのできない説得力がありました。

「い、いや、それはないが…」

 力なく肩を落としたポコペンを励ますようにニコチンが言いました。

「さあ、ポコペン様!平和を築く新しい酋長として、すぐさま仲間と武器を集める第一番目の命令を下すのです。もちろん皆に異論はないはずです」

「おお!」

 戦いを決意した、理想に燃える若者たちの熱い叫び声が小さな小屋にこだまして、ハナモゲ族の夜はにわかにあわただしさを増しました。