しあわせの汽車ポッポ

作成時期不明

 駅が離れて行きます。

 そして、いつもお美代たちが汽車を見送る踏み切りが、あっという間に遠ざかります。

「走った!汽車が走ったとよ!」

 お美代が良太の肩を抱いて言いました。

 けれども喜ぶはずの良太は何だか不思議そうな顔をしています。

「どがんしたとね、良太?汽車が動きよっとよ。お前は今、汽車に乗って走っとっとよ」

 お美代が説明すればするほど良太は不思議そうな顔をして、とうとう泣き出してしまいました。

「汽車ポッポが見えん、汽車ポッポが見えん」

「なんば言うとね、お前は今、汽車に乗っとうとよ。こいがお前の好きな汽車ばい。この床も、椅子も、窓も、みんなお前の大好きな汽車ポッポたい」

「汽車ポッポが見えん、汽車ポッポが見えん」

 良太は泣き止みませんでした。次の駅に着くまで、良太はずっと泣き続けていました。

「お前は汽車に乗っとうとよ。乗っとっけん汽車は見えんたい。そいけん確かに今、お前は汽車に乗っとったい」

 一生懸命説明しながら、お美代は悲しくなりました。悲しいくせに笑いがこみ上げてきます。笑いながら涙があふれて来ました。

「自分のしあわせに気のつかんもんは馬鹿たい!」

 おっかしゃんの声が聞こえたような気がしました。そして、良太をしっかりと抱きしめながら、お美代はその時、ぼんやりとしあわせだったのです。