夢の解釈

平成26年08月24日(日)

 専門学校で教員をしている私に、十年以上昔勤務していた総合病院に転勤せよという命令がありました。学校と病院の経営主体は全く別であるにも拘わらず、人事異動があるという辺りが、夢の面白さですね。

 久しぶりの病院はすっかり建て直されていて、何と、外側が自然石と緑で覆われた巨大な球体の建物に変わっていました。私はてっきりソーシャルワーカーとして勤務するものと思っていましたが、出迎えた職員は、下にも置かぬ丁重な態度で、迷路のような廊下をいくつも曲がり、

「この部屋をお使い頂くことになります」

 応接セットの置かれた立派な部屋に案内しました。そして、ひと息つく暇もなく、

「着任早々恐縮ですが、本日の催しでご挨拶をして頂くことになっております」

 初仕事になりますねと言いながら、再び廊下を曲がり、エレベ―ターに乗って、私を最上階にある大講堂裏の控え室に連れて行きました。モニターの画面では、二百人は悠に超えていると思われる白衣や事務服姿の職員たちがひしめいています。ステージの横断幕から判断すると、どうやら有名なアーティストのコンサートの冒頭で、私の挨拶が予定されているらしいのです。そこで、

「あの…私はどういう立場で挨拶するのですか?」

 案内してくれた担当の職員に尋ねるのですが、畏れ入るばかりで答えてはくれません。

 医師でもない私が院長であるはずはなく、病院経営の経験のない私が事務局長として招かれたとも思えません。辞令も渡されない人事異動に改めて不信を抱きましたが、挨拶の時間は迫って来ます。

「それじゃあ、最低限、これだけは触れなければならない話題があったら教えて下さい」

「そうですね、船橋さんに土地の売却登記の手続きをして頂いたことについては感謝の意を表して頂くといいかと思います」

 詳しい事情も分からないままステージに押し出された私は、開き直って、ありのままをお話しすることにしました。

「ええ、私、突然転勤を命じられて、たった今着任したばかりです。十年以上も昔、この病院に勤務していた経験はあるものの、建物もすっかり建て直され、当時の職員さんも変ってしまって、実は本日の催しの趣旨も内容も理解しておりません。ただ、船橋様に土地の売却の労を取って頂いたことについては感謝の意を申し上げるよう聞いております。有難うございました。このあと、素晴らしいコンサートが予定されているようですが、日頃の苦労をしばし忘れて、皆さんどうぞごゆっくりお楽しみ下さい」

 言い終わるや否や会場に割れるような拍手が沸き起こり、ギターを持った三人の外国のミュージシャンが弾かれたようにステージに飛び出して演奏を始めました。

 役割を終えた私は控え室に戻りましたが、案内してくれた職員の姿はありません。部屋を出ると、迷路のような白い廊下が続くばかりで、目的を示す案内板もありません。