横断歩道

平成30年09月19日(水)

『ま、大変でしたね。交通ルールいっぱいあり、たまたま引っ掛からないだけで違反はしてますものね。点数と罰金、痛いですね。気を付けて行きます』

 定年退職した元医療ソーシャルワーカーの女性です。ソーシャルワーカーの道に入るきっかけになったという私の手紙を今も保管していると自慢されると、私は恐縮して頭が上がりません。

『知りませんでした!先生、一緒にお祓いに行こう!』

 非常勤の女性教員です。むやみに酒が強いくせに、どんなに飲んでも顔色も態度も変わりません。目が会えばニッと笑って見せる愛嬌者ですが、逆境に負けない強さを秘めています。

『長い横断歩道だったら、いつまで経っても右折できないね。今、ネットで確認したら、オリンピック前に横断歩道ルール強化しているらしいよ』

 私の娘です。思春期の二人の息子に手を焼きながら保育士をしています。

『おお!びっくりビックリ…そうなんだ!教えてくれてありがとう』

 盲老人ホームの女性ケアマネです。感情が豊かで、それを率直に表現します。こまやかで大らかという一見矛盾する性格が一人の人間に統合されています。例えば反対側のプラットホームに私の姿を見つけると、人目を憚らず「てっちゃ~ん!」と大声で手を振る明るさを持っています。

『そんなルールなんだ。柔軟な運用ができないものかね。気を付けます』

 グループホームを皮切りに複数の福祉事業を展開する男性経営者で、社会福祉士養成校の教員でもあります。真面目で誠実で人を大切にします。講義はゆっくりと心地よく上質です。不眠症になったときは枕元で講義してねと言うと怒ります。

『災難としか言いようがないね。道の狭い道路だったんですね』

 精神病院のベテラン男性ソーシャルワーカーです。本業のほかに二胡の演奏はプロ級で、方々でコンサートも開催されています。

『ありゃ、そんな規則があるんですか?揚げ足取り、意地悪のレベルですね』

 駄洒落と岡林信康が大好きな男性教員です。高校入学以来、三十年以上愛用した腕時計は、ありふれた大衆時計でしたが、旅先で紛失したときは長い間うろたえて、同じ型の時計をネットで探して購入しました。この逸話に代表されるように、目立たないこだわりを複数持っていることが、人格に不思議な奥行きを加えています。

『今年五月に息子が免許の更新時に教わってきて、義務なんだ!と驚いていました。それ以降は気を付けていますが、自分が歩行者の場合に横断歩道を渡ろうとする時、止まらずに走り去る車は多いですね』

 グループホームの管理者の女性です。心の通うケアを実現している素晴らしい指導者で、認知症の母親の手術に、忙しいからと付き添おうとしない娘の代わりに、ベッドサイドで親身になって、歩き回らないように相手をしていました。結局、福祉は人なんだと思わせてくれる女性です。

『これぐらいだと世間の多くの人は罪の意識もなく普通にやっていると思います。理屈では警察に分があるとは思いますが、そんなことまで捕まえるの?という気持ちはぬぐえないです。ご愁傷様です』

 人間ドックで指摘された糖尿病を克服するために、キャベツと豆腐だけの食事を半年近く継続して、急激な減量に成功しました。強靭な精神を持つ男性教員からのメールです。誰よりも熱く学生を愛し、一人一人の学生の悩みにたっぷりと時間をかけて耳を傾け、その信頼関係は卒業後も続きます。