分かり易い成年後見制度

平成27年12月07日(月)

成年に達していても保護すべき人たち

 さて、未成年者が物事を合理的かつ総合的に判断する能力が不十分であるという理由で保護すべき存在であるならば、同様に判断能力が不十分な知的障害者や精神障害者や認知症高齢者は、成年に達していても保護すべき存在ということになりますね。成年には親権者はいませんから、別に親権者に相当する保護者を定めなければなりません。保護者を定めて判断能力に欠ける成年の財産を管理すると共に、生活や健康を守る様々な権限を与える仕組み…これが成年後見制度です。しかし対象は成年ですから、未成年のように年齢で一括りにはできません。判断能力の程度に応じて保護の程度も変えなければなりません。そこで判断能力の程度について、財産の処分に援助が必要な場合があれば「補助」、常に援助が必要であれば「保佐」、自分では財産の処分できなければ「後見」という三段階に分けました。そして、それぞれの保護者を補助人、保佐人、後見人、保護される対象を被補助人、被保佐人、被後見人、まとめて呼ぶ場合は後見人等、被後見人等と呼ぶことにしました。こういう名前が出て来ると面倒になりますが、制度を理解するためには乗り越えなくてはなりません。判断能力の程度を判定するのは医師ということになります。


 役割

 後見人等の役割は、被後見人等の財産管理と身上監護です。

 具体的に言えば、印鑑・預貯金通帳を管理し、年金・給料を受取り、公共料金・税金・利用料等を支払い、不動産を管理処分し、貸地・貸家を管理し、遺産相続の手続き等を行うのが財産管理です。本人がした不利益な契約を取り消すことも財産管理です。

 家賃を支払い、契約を更新し、福祉制度や介護保険や障害福祉サービスの利用の手続きを行い、費用を支払い、医療に関する手続きを行い、本人を定期的に訪問して生活状況を確認するのが身上監護です。行政に異議申し立てを行うことも身上監護に入ります。


選任

 未成年には通常、親権者という保護者が当たり前に存在しますが、知的障害者や精神障害者や認知症高齢者など保護が必要な成年は、家庭裁判所に申立てて後見人等を選任してもらわなければなりません。選任手続きは4親等以内の親族の申し立てによってスタートします。後見人等は圧倒的に親族が選任される場合が多かったのですが、近年は、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職や、後見センターなどの法人が選任される例が多くなりました。補助人は財産の処分に援助が必要な場合があるという程度ですから、申立てそのものに保護の対象になるべき人の同意が必要ですが、保佐と後見は本人の同意なしに申立てることができます。つまり補助は、例えば、「この頃よくもの忘れをするようになったから、大切な書類や証書をきちんと管理してもらいたい」と、成年後見制度を使う意思を明確に持てる程度の人が対象ということですね。これに対し、保佐と後見は自分の判断能力に問題があることについて自覚できない程度の人ということになります。


利益相反

 後見人等に選任されると、他人の財産管理を任されるのですから、任された財産から支出したおカネを、受け取る立場にいる人は後見人等にすることはできません。自分が管理している他人の財産を自分のために使うのは不適切ですからね。利害が対立することを利益相反と言うことは未成年のところで説明しましたね。単純化すれば、おカネを出す人と受け取る人が同じである場合がその典型と言えるでしょう。裁判官は後見人等を選任するに当たっては、利益相反関係にあるかどうかを中心に、様々な事情を総合的に判断して裁判官の権限で後見人等を選任します。例えば多額の借金を背負っている息子を認知症高齢者の後見人等に選任はしないでしょうし、施設に入所している知的障害者の後見人等に、施設の職員は選任しません。最近は社会福祉協議会が後見人等の担い手になる例が増えていますが、福祉サービスを提供する機関がサービスを受ける側の財産を管理することに対する疑義を、利益相反にならないような組織上の工夫をこらして選任されているのです。


市町村長申立て

 選任手続きは4親等以内の親族の申し立てによってスタートすると言いましたが、親族がいなかったり、いても疎遠で関わってくれない親族だったり、将来の遺産分割や介護を巡る思惑のために財産管理の権限が誰かに集中するのを警戒していたり、何よりも親族がキャッシュカードを利用するなどして本人の財産を自分のために使っていたりすると、申立てをする親族がいない事態も想定されます。そういう時のために、民法ではなく、知的障害者や精神障害者や認知症高齢者の福祉に関する法律の中で、市町村長にも申立権を与えています。自治体によっては条文を狭く解釈して、戸籍上親族がいない場合にのみ市町村長申立てを行うという取り扱いをしている例もあるようですが、必要があるにもかかわらず親族が申立てをしない場合こそ市町村長申立てが重要になるのです。


 後見人等の権限

 未成年を保護するために親権者に与えられていた権限は、同意権と代理権でしたね。同意権には取消権と追認権がセットになっていました。親権者の場合は、特別な手続きをしなくても、法律によってこれらの権限が、広範に与えられていましたが、後見人等に選任された場合は、財産管理と身上監護に関してのみ、判断能力の程度に応じて、同意権と代理権が裁判所から与えられます。もちろん同意権には取消権と追認権がセットになっています。被後見人等も社会生活を営んでいるのですから、欲しいものを買ったり、映画を観たり、場合によっては人におカネを貸したり、人からおカネを借りたり、悪徳業者から法外な値段の羽毛布団を売りつけられたりしますが、後見人等は、裁判所から権限を与えられて、未成年者の契約の場合と同様に、同意を得ないで被後見人等が行った不利益な契約を取消すことができます。また福祉サービスの利用契約を結ぶ必要があるにもかかわらず、判断能力の重い障害によって契約が結べないような場合は、後見人等が代理権を使って結んだりするのです。

 財産管理と身上監護に関してのみ、それも必要に応じて、同意権と代理権が裁判所から与えられるという辺りの事情をもう少し詳しく見てみましょう。