わか捨て山
作成時期不明
「おのれ、大臣め!」
その夜、王様はひどくご機嫌斜めでした。
「あやつはことあるごとに昔の失敗を引き合いに出して私に盾をつく。あれだから年寄りは嫌われるのだ。そもそも年寄りというものがどれくらい国の発展の妨げになっておるか考えてみたことがあるのだろうか。もはや働けないか、たとえ働いたとしても大したことはできぬくせに、食べることだけは一人前だ。それだけでもわが国にとっては大変な損失だというのに、やれ肉は体に悪いだの固いものは食べられぬのと文句ばかり並べ立てる。そういう意味で年寄りは、料理と言う文化の発展にも大きな妨げになっているのだ。病院はどこへ行っても年寄りで一杯で、肝心の若い者が医者に診てもらおうと思えば、気の遠くなるほど長い時間を順番を待つために無駄にしなければならぬ。老い先短い年寄りのために使われる薬の量は莫大な金額だ。独り暮らしになればやむを得ず国が面倒をみなくてはならぬ。寝たきりの年寄りを抱えた家族の苦労は計り知れぬものがある。道路を歩かせれば交通の妨げになる。耳は遠い。目は悪い。どれを取り上げてみても、年寄りはわが国の発展にとって足手まとい以外の何ものでもないのだ。家臣の意見を聞けか…。面白い。聞いてやろうではないか。どんな意見が出ようと決めるのは国王であるこの私だ。そして私はもうすでに姥捨て山を作ることは決めてしまったのだ」
王様はそうつぶやくと、ふかふかの羽根布団に体をうずめました。けれどなかなか眠りに突くことができなかったのは、きっと久しぶりの大仕事に興奮していたからに違いありません。そして次の朝早く、宮殿の鐘が高らかに打ち鳴らされて、大広間に大勢の家臣たちが集められたのです。
* * * * *
「…というわけで、私はわが国にも姥捨て山を作ろうと考えている。それがわが国のためにはどうしても必要だと思うからだ。その方たちの意見を聞こう。ただし…」
と、そこまで言うと、王様は集まった家臣たちをぐるりと見渡して言いました。
「ただし、姥捨て山を作ることに反対する意見だけは許さぬぞ。私が聞きたいのは、姥捨て山を作るにはどうしたらよいかという建設的な意見なのだ。さあ遠慮はいらぬ、何でも思ったことを申すがよい」
聞かれて大広間は大変な騒ぎになりました。だって集まった家臣たちのほとんどがもう立派な年寄りです。やがて自分たちが捨てられる事になる姥捨て山を、自分たちの手で作るなどできるはずがないではありませんか。
「何でも申せと言われても、これでは意見の出しようが無い」
「そうだとも、王様もひどいことをなさるものだ」
「言い出したらきかない王様だからなあ…」
「まったくだ、長生きなどするものではないぞ」
口々に不満を言うだけで何の意見も出せないでいる家臣たちのうろたえぶりに、王様は得意そうに微笑んで言いました。
「意見もなさそうだ。それでは私の思いどおりに姥捨て山を設けることにいたすぞ」
と、その時です。
「恐れながら…」
大臣が口を開きました。
「何だ、大臣!何なりと申すがよい。だが反対意見だけは認めぬということを忘れるでないぞ」
「反対意見ではございません。王様はこの国の法律でございます。王様がお決めになったことには国民全てが従わなくてはならないのは当然のことではありませんか」
思いがけず従順な大臣の態度に王様は満足そうです。
「ただ少しお伺いしたいことがあるのです」
「何なりと申せ」
「わが国に住んでいる者はすべてわが国民でありますな?」
「当たり前なことを聞くものではない。私を含めてこの国に住む者は全てがわが王国の国民であるぞ」
「そして王様のお決めになったことには国民全てが従わなくてはならないのでありますな?」
「それも当然なことだ。私はこの国の法律なのだ」