わか捨て山
作成時期不明
「ではお尋ねいたします。王様とて人の子であれば、いずれは年を取られるわけですが、その時は王様ご自身も姥捨て山に捨てられてしまうのでございましょうか?」
「そ、それは…」
「王様の母君も姫君も叔父君も、この国の国民である以上、王様の命に従い、いずれは姥捨て山に捨てられてしまうのでございましょうか?」
「いや、そ…それは」
「もし王様とそのご家族だけが別となれば、それは大変な問題でございます。恐らくこれまで平和が続いたわが国にもたちまち戦争が起こりましょう。なぜなら捨てられる心配のない国王の地位に誰もがつきたいとあこがれるからでございます」
大広間にどよめきが起こりました。
「さあ、さあ、ご返事は」
と詰め寄られて言葉を失った王様は立ち上がり、体をぶるぶる震わせています。そして、
「大臣、それ以上は…。王様は心臓が」
とおつきの看護師がとめる間もなく、興奮し過ぎた王様は真っ赤な顔をしてその場に倒れてしまったのです。
* * * * *
「王様!王様!」
という声が次第に遠のいて行きます。
代わりに耳元で、
「若僧、これ!若僧」
という声が聞こえて来ました。
王様の魂は既に王様の肉体を離れ、天国の入り口で門番に呼び止められたのです。
「若僧、お前の年はいくつだ」
裾の長い真っ白な服をまとった門番にそう尋ねられて、王様はびっくりしました。生まれてこのかた他人からお前などと呼ばれたことはただの一度もありません。
「私は国王であるぞ。口の利き方に気をつけるがよい」
するとその年取った門番は大声で笑った後で、
「ここは天国だ。天国の王様はちゃんと別にいらっしゃる。ここでは地上での地位など何の役にも立ちはしないということを覚えておくがいい。それよりも若僧、聞かれたことに素直に答えるのだ」
恐ろしい顔で門番に睨みつけられて、
「私は今年でちょうど三十歳になる」
王様がしぶしぶそう答えると、門番はにやりと意味ありげな微笑を浮かべ、さっと右手を上げました。すると、それを合図にどこからともなく兵士たちが現れて、
「これ!何をする!」
と叫ぶ王様を無理やり押さえつけ、太い縄で縛り上げてしまいました。驚いたことに兵士たちはどれもこれもが大変な年寄りばかりです。
「おいぼれ、離せ!いったい私をどうするつもりだ」
王様には何が何だか解りません。解らないまま王様は兵士たちにとり囲まれるようにして天国の細道をどこかへ連れ去られて行きました。