日本の劣化
令和5年12月26日
「確かそうでした。しかしあれが効果があったのですよ、若い人はストレスによる不眠程度ですぐ心療内科や精神科のクリニックを受診する。我々は眠れなければクスリじゃなくてこっちですよね?」
と、その男もビール瓶を持ち上げてお代わりを注文した。
「そうです、ストレスは飲んで愚痴を言って発散する」
「ところがこの頃は他人にプライベートは話さない」
「他人の私生活にも立ち入らない」
「配偶者の職業を聞くのは非常識で、子供の話をして障害児だったりしたら傷つける。表面的で当たり障りのない話題で過ごすのがマナーになっています」
「…で、愚痴を聞いてくれる場所もなくて、眠れなくなって精神科を受診すると簡単に病名が付く」
「病名が付くと本人はすっかり病人になっちゃうし、周りは腫れ物に触るような扱いをする」
「とにかく弱者の時代です。弱い立場であることを表明したとたんに、突然、立場は強くなります」
「そういう風潮も劣化の原因かも知れませんね」
「最近では人を襲ったクマを射殺すると、可哀そうだ、動物虐待だと、行政も猟友会も激しく非難されますからねえ…」
「なるほど、クマも弱者ですか…確かに、食べ物に困って里へ下りてきた、いわば生活困窮者ですからね」
「弱者をいたわる視点は大切ですけど、クマまでが弱者となると、襲われた人の気持ちは複雑ですね」
「ま、そういう意味では不登校の子供の親は間違いなく弱者ですが、児童相談所で最初に話を聞く重要な仕事が有期の非正規職員では困りますよね…多少の研修は受けるにしても、相談に行った人はたまりません」
「あと一年で雇用年限が切れるから、何とか通信教育で社会福祉士の資格を取って正規職員の試験を受けたいと言ってました」
「私は非正規雇用がこの国の劣化の元凶だと思っています。公務員の三分の一が非正規だと聞きますからね…と言っても私の息子も非正規やってますが」
「うちの娘だって派遣職員ですよ。いずれにしても非正規は正規に比べれば職場に対する所属意識が低いでしょ?同じ仕事をしていても給料が安い。組織のラインじゃないから、どこまで行っても大切な意思決定には関われない。その上、有期雇用となれば、仕事を覚えた頃に職場を去ることになる。不安定な働き方です」
「生活が不安定だと、当然、心も不安定になります」
「その話題になって今改めて気が付きましたが、政治家も有期雇用ですから、当選した次の日から不安な毎日が始まるのでしょうねえ」
「なるほど、政治家は不安定就労ですか…。それで知名度の高い権力者の派閥に属して、次の選挙に備える訳ですね」
「一年生議員がパーティ開いたって誰も参加しませんからね」
「派閥が主催して有力議員が演説するからパーティ券が売れる。所属議員にキックバックするパーティー収入の金額だって、選挙の年は際立って多いみたいですよ」