日本の劣化

令和5年12月26日

「なるほど。政権交代は起きない訳だ」

「確かに戦後営々と守って来た専守防衛という憲法の解釈さえ内閣の考え方であっという間に変わってしまう、民主主義とも言えない国だけど、それでも今のところ戦争は起きていないし、餓死者があふれている訳でもない。物価が上がった、生活が苦しくなった、政治家は不正を働くと嘆きながらも、テレビをつければグルメと旅と動物とバラエティ番組ばかり…ってことは、まあまあ住み易い国ってことなのかも知れませんなあ…」

「政府は財界を忖度し、マスコミも広告収入源である財界には逆らえない。グルメと旅と動物とバラエティなら安上りで政府も財界も刺激しませんからねえ」

「NHKは?あれは受信料で成り立つ国民放送でしょう?」

「いや、補助金と許認可で縛られた国営放送ですよ」

「確かに・・・。ま、しかし、気に入らないことは多いけど、おれは嫌いじゃないですよ、この国」

「ほかの国を知って言ってるのかい?」

「だって中国もロシアも韓国も嫌じゃありませんか、何となく」

「その程度の話だ」

「いいじゃないですか、その程度の話で。ぼやくのも大切ですが、基本的には現状に満足する態度こそが幸せの原点ですよ」

「どこの国に住んでもユートピアって訳には行きませんからねえ。外はどんなに寒くても、ぼやき酒場があって、うまいおでんと熱燗があって、こうして皆さんが集まって来る。我々はそれで満足しないとね。大将…」

 と男が空の徳利を持ち上げようとしたとき、

「残念ですが本日はそろそろ店じまいです。お客さん、今日のところはこのあたりで満足してください」

 店主が屈託のない笑顔で言った。

 ぼやき酒場の営業時間は夕方六時から夜十時までと決まっている。