日本の劣化

令和5年12月26日

「理想に燃えて政治家になったものの、しばらくすると自分が有期雇用の不安定就労であることにはたと気が付いて不安に駆られ、手に入れた特別待遇の地位を失ってなるものかとばかり、理想より保身の議員になってしまうのですね。確かに不安定就労という見方をすればその気持ちも理解できます」

「しかし、そもそも一般市民は特別待遇ではありませんから、不安定な立場に不全感を募らせた非正規職員の中には、自暴自棄になって無差別殺人を犯す者や、腹いせに職場の法令違反を告発する者が出てきます」

「そう言えば不祥事はたいてい内部告発で発覚しますよね」

「不正が表に出てくるのは社会にとってはいいことですが、告発の動機が腹いせというのはどうもねえ…」

「同じ職場で正規職員と比べて歴然と理不尽な差があれば、そりゃあ腹いせをしたくもなるでしょう。正規になろうとしても、突出した能力でもない限り、中々非正規からは抜け出せない」

「親と同居の不安定就労では結婚相手も見つかりませんしね」

「大恋愛でもしない限り、生活が不安定な人を結婚相手には選びません」

「…ということは子供が増えません」

「少子化ですね!当たり前ですが、人口の減少する国家は、社会も経済も急速に縮んでいきます」

「うちの息子は三十八歳で独身です。洗濯も掃除も母親がやってます。非正規とは言え、家賃も食費も入れないで給料は全部自分の小遣いですから、独身貴族って言うんですか?車を持って、ゲーム三昧の、そりゃあ優雅な生活をしていますよ」

「それでも男の子ならまだ結婚の可能性はありますが、うちなんか一人娘が来年四十歳の大台ですからね」

「あ、それなら今度ここへ二人を連れてきて、それとなく見合いをさせたらどうですか?」

「あなた、何言ってるんですか、娘は派遣ですけどね、プライドは人一倍高いのです。結婚相手は三高って言うんですか、高学歴、高収入で背の高い人でなきゃだめだって言ってますから、非正規だと言えば会ってもくれないと思いますよ」

「三高ですか。娘さんは古風ですね。若い人の多くはもう結婚に夢なんか抱いていませんよ。ましてや子供を持てば自由を拘束されるだけでしょう?その上、いじめられたり、いじめたり、大変なリスクを乗り越えて育ててみても、親の老後を見てくれる時代でもありません」

「そのね、子供を持つことをリスクというのはやめませんか。年頃になれば当たり前のように結婚し、結婚すれば当然のように子供を授かって、子育てをしながら人間は家族という単位で成長をする。それが健全な姿でしょう」

「夫の給料で家族が生活できた時代の価値観ですよ。今は夫婦共働きが標準です。女性の自立、女性の社会参加、男女共同参画、労働も家事も育児も男女対等が理想になりました。共働きの夫婦にとって子供はやはりリスクですよ」

「だから育児の社会化が進んでいるのでしょ?子育ては社会が引き受けるから夫婦で働きなさいってことでしょうが、私は長い目で見て、それが果たして正しいことだろうかと思います。病児保育でしたっけ?病気のときまで子供を他人に預けて働くことがそんなに素晴らしいことでしょうか?」

「うちの娘なんか、子供の体温が三十七度を超えると、保育所から迎えに来てくださいと連絡が入って困っています。結局、娘からの連絡で私たち夫婦が孫を迎えに行くのですよ」

「ゆとりのない社会ですねえ…子供たちはそんな環境で育っているのですね。爺ちゃん婆ちゃんが近くにいない夫婦はどうするのでしょう」

「どちらかが、仕事を早引けするのでしょうね」

「いや、政府は七十歳になっても働くことを奨励していますから、これからは孫を迎えに行けない爺ちゃん婆ちゃんも増えるでしょう」

「やはり子供はリスクです」