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多死社会考
平成29年02月27日(月)
高齢化は単独で存在している訳ではありません。少子化が進んでいるために、相対的に高齢者の割合が増えているのです。子供が減って高齢者が増えるということは、働く人が減って、働けない人が増えるということです。年金を支払う人が減って、受け取る人が増えるということです。高齢者は働けないだけでなく病気をします。介護が必要になります。つまり年金や医療費や介護費が増える一方で、それを負担する人が減るのです。
「さあ、皆さんが総理大臣だったら、国家規模で起きるこの深刻な事態にどう対応しますか?」
会場に下りてマイクを向けると、記憶では答えの出せない質問に、優等生と思しき生徒たちが一様に顔を背ける中で、自由な雰囲気の生徒が答えました。
「年寄りはどうせ死ぬのだから、治療しない」
前半分のお母さんが一斉に後ろを見ます。
「年寄りはどうせ死ぬのだから、入院させない」
別の生徒の発言で勢いを得て、
「年寄りはどうせ死ぬのだから、集めて最低限の治療をする」
「年寄りはどうせ死ぬのだから、殺す」
やがて優等生も手を挙げて、発言はどんどんエスカレートして行きました。
「ちょっと待って、君たち、年寄りの費用を削ることばかり考えないで、もっと社会全体を広くとらえてみようよ」
慌てて軌道修正をすると、競うようにアイデアが出て来ました。
「年寄りは働ける間は働かせればいい」
「働いている間は年金は支給しない」
「外人を入れたら働く人は増えるんじゃない?」
「外人を入れなくても、昼間の喫茶店には、働けそうな中年の女の人がたくさんお茶を飲んでいるわ」
「主婦が働けるようにすればいいんだ」
「それより、もっとカネ儲けをすればいい」
「カネ儲けって?」
「う~む、よく分かんないけど、売れる物作って外国に買ってもらうとか」
歯止めがきかなくなった中学生の発言を何とか収拾して講演会を終えました。介護保険が取り沙汰され始めた頃のことですから、2000年より前の出来事です。ということは、あの時の中学生たちは、今では三十代の社会人になっているのですね。