<目次>表紙 (第1章)カガミガイとの出会い 1.研究を始めたきっかけ 2.化石の標本作り 3.発掘をした浜名湖について 4.カガミガイについて調べた事 5.カガミガイの採集 (第2章)カガミガイの生態とカガミガイの貝殻の研究 1.今年の研究テーマ 2.研究内容 (1)カガミガイの生態 @カガミガイの飼育観察 A砂にもぐる速さ調べ Bカガミガイとアサリの浄化作用 C温度と動きの関係 (2)カガミガイの貝殻を使った研究@顕微鏡などでの貝殻の観察 A貝殻の重さに対する強さ調べ B微生物の入った土に対する貝殻の強さ調べ C身の回りの液体に対する貝殻の強さ調べ D化石の貝についていた砂泥からの水質調べ (第3章)研究の結果と今後の課題 1.研究の結果 2.今後の課題と感想 3.最後に(貝のタイムカプセル) 4.参考文献 5.お世話になった方々 ★貝らワールドのトップページへ★ |
2 今後の課題と感想
(今後の課題)
化石の貝を未来に残していけるだろうかという大きなテーマに対して、「化石で出会ったカガミガイはいったいどんな貝なのか。」「カガミガイの貝殻はどのくらい強いのか。」「どういう条件のものが強いのか。」「貝殻が弱いものは何か。」「それは身の回りにはないのか。」と実験をすすめていったが、それぞれの実験過程で、もっと貝殻があったらやってみたいことやもっと深くさぐってみたいことが次から次に出てきた。
今回の実験を通して、海生の二枚貝の飼育については、もっと長い間飼って卵からかえるところや幼生の時の様子も見てみたいと思った。
貝殻の強度を知るためにおこなった重みをかける実験では、今回は真上からのみ重みをかける形をとったが、化石の貝が地層の中にある状態は全ての方向から圧力がかかっているので、ぐるりと圧力をかけられるような実験道具をまず考えてから、もう一度調べてみたいと思った。
土の質についても、地層の中が化石の居場所であるので、どういう土の質がいいのか、農薬や化学肥料が入った土だったら貝殻がどうなるのか試してみたいと思った。
そして、貝がどうやって化石になっていくのかももっと勉強してみたいと思った。
また、液体の実験では貝殻が酸性に弱いことがわかり、さらに水質の実験で家のあたりに降っている雨が酸性であることがわかった。重さをかける実験でも雨水と天日にさらした貝殻はもろくなったので、カタツムリなど陸産の貝がそういう雨にずっとあたっていたらどうなるのか、また貝殻がうまっている海岸の砂の上に酸性雨が降った場合どのくらいの深さに貝殻があると影響が出てくるのか、これから調べてみたいと思った。
(感想)
約80年ぶりのナウマンゾウ発掘調査というとてもラッキーな機会に参加でき、さらにナウマンゾウの肋骨と前足の骨が見つかるというぼくにとっては一生忘れられない大きな出来事だったが、それと同じくらい化石のカガミガイとの出会いにはおどろいた。20〜25万年という時間は化石の中ではまだ赤ちゃんのようなものかもしれないが、人間のぼくにとっては気が遠くなるような時間がたっていて、それでいてつい最近うめられたみたいだったカガミガイとの出会いは『一体なぜだろう』というこれまでで一番大きな疑問との出会いだった。
実際カガミガイを女河浦海岸で採ってみたら、化石の貝殻とくらべて小さいものばかりだったので、大きくなる前にアサリなどといっしょにとられてしまっているのではないかとまず思った。さらに飼育してみたら、ぼくの観察では水温が高めの方が活発に入出水管を出すことがわかったので、今年の浜名湖の水温が下がっていて水管をあまり出さず大きくなっていないのではないか、またこうした水温が低い状態が続くとこれからあまり大きくならないのではないかと心配になった。ぼくが行った重みをかける実験でもカガミガイの貝殻が少しでも大きい方が強かったからだ。
また、貝殻に重みをかける実験で冷凍庫から出したての貝殻がとても強かったのにはおどろいた。実験前の予想ではカチカチに凍っているとすぐパキンと割れると思っていたからだ。冷凍すると貝の中にある物質が変化するのだろうか。一方、約1000度のガス火で1分加熱した物はブロックを一つのせただけですぐにボロボロと割れてしまったので、これから先に火山爆発のような自然災害はもちろん、戦争があって爆弾を使われるような事があったら、粉々になったり溶けたりしてしまうだろうととても心配になった。
微生物に対しては、微生物の入った生ゴミたい肥化促進剤を加えて4週間おいても、カガミガイの貝殻には見た目では変化がなかった。この実験には発掘調査でもらってきた数少ない化石カガミガイの一個を使ったので、4週間後に、入れた時と変わっていない化石カガミガイの貝殻の姿を見た時は「良かった。貝殻は微生物には強いんだ。」と思った。
色々な実験や観察を通して、ぼくたちの時代は化石の貝を未来に残していけるかどうかはとても難しい問題だと気づいた。
『貝が生きている間から砂にしっかりもぐっ ていること。
水温が貝にあった温度で、海水の中の栄養 がいっぱいであること。
人間が貝をとりすぎないこと。
天敵がふえすぎない環境であること。
自然の災害が少ないこと。
人間が自分たちの都合により、地球の環境を変えてしまったり悪くしたり戦争をしたりしないこと。』など、考えてみれば本当に色々な条件が整ってはじめて生きている貝が化石になる可能性があるのだとわかった。さらに化石化する間の条件や化石になったものが残っていくための条件は、もっともっと複雑なものなのだろう。
今回の実験では、雨水が、貝殻が溶けやすい酸性だったことが一番心配になって、人間がいなかった時代の地球には酸性の雨の原因となる車や工場などなかったと考えると、貝が化石として残っていく可能性は人間がいなかった時代の方が高かったのではないかとぼくには思えた。
今回の様々な実験や観察は、これからより深い研究をしていかなければわからない疑問をたくさん残すものとなったが、これから25万年後、いやそれよりずっと後の時代になって今のカガミガイが発見されるような地球をぼくたちは守っていかなければならないと実感した。大人になってもこの気持ちをずっと忘れないでいたいと思う。