武蔵御嶽神社宝物殿には、国宝の赤糸威鎧と並んで、重要文化財に指定されている紫裾濃鎧が展示してあります。弘安の役(1281)の際、惟康親王より蒙古撃退祈願のため奉納されたと伝えられる大鎧です。松平定信(1758~1829)が国内各地の古物器などを記録した『集古十種』にも集録され、古くから広く知られていました。
裾濃とは上部が淡く裾に下がるにつれ濃い色に染色されたものをいい、しころや大袖、胴から下に垂れた草摺といわれる部分が、白、黄、淡紫、紫と染められています。明治36年(1903)に行われた日本美術院の修復により、現在新たな糸が使われていますが、本来は武蔵野の特産であった紫草で染められていました。鎌倉時代中期の洗練された優雅な大鎧で、現存する紫裾濃鎧としては最も古く、この時代の様式判定の準拠となる代表的なものです。
大鎧は騎射戦が主流であった平安時代後期に最盛期を迎え、鎌倉以降は実戦的な鎧から、武将の権威や格式を表すものとなり、制作にはより高い技巧がなされるようになります。中でも繰締緒といわれる胴を締める紫裾濃鎧の組紐は、両面亀甲模様の秀逸なものです。『御嶽組』として知られ、赤糸威鎧のくさび模様の組紐より、さらに高度なものとなっています。徳川吉宗が上覧を命じ江戸城に運ばれた折、この両面亀甲組紐を模倣させますが完成されず、最近では上野の組紐職『道明』により数年がかりで試作品が奉納されました。この組紐は、鎧とは別に合わせて展示してありますので見比べてください。
宝物殿は土・日曜日、祝日が開館となっています。
|