武蔵御嶽神社の宝物殿には、いわゆる完形品ではなく、部分的な物に対して文化財の指定をされた物が有ります。写真は、「兵庫ぐさり〈かねへんに毎〉太刀拵残欠(2連)」で、鎌倉時代末期に奉納用の太刀として作られたものの残欠で、名称の兵庫ぐさりは兵具ぐさりが訛ったものと言われています。
これは、平安時代を境に、古くは直刀での大刀またはそれ以降に作られた反りのある太刀の鞘に装填された器具で、全体は帯執金物と呼ばれています。先端にある羂に帯を通し、その帯を締めることで太刀を佩くこととなります。中央のくさり部分を帯執(兵具ぐさり)といい、古くは韋製のものが多く、鎌倉時代になって、くさりで丈夫に作られるようになりました。また、中央に逆三角形で付いている器具は据文金物と呼ばれ、三条のくさりを平らに纏めています。これらは、覆輪をめぐらした太刀につけられ、より一層飾り付けも色も瀟洒となり、公家や高位の武官が好んで用いるようになりました。あまりにも華美になり過ぎたため、寛喜三(1231)年には兵具ぐさりや長覆輪太刀は贅沢品として共に禁制とされた事もあり(『東鏡』)、現在残っている物は神宝として社寺に奉納され残されてきたものが多いようです。
二つの足金物は徳利の形(瓶子)をしており、全面に鱗紋を彫り、側面は猪目形に掘り抜かれています。左側は全長17.1cm、重さ47g、右側は全長14.2cm、重さ60gです。据文金物は北条氏の紋所三鱗紋を意匠に作られ、逆三角形の取り付けは当時のままであることが確認されています。この帯執金物と類似したものが栃木県日光の二荒山神社と埼玉県さいたま市緑区の氷川女体神社に奉納されており、都下における本件は、たいへん稀少な存在であることから、昭和51年11月3日に青梅市指定有形文化財に指定されています。
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