青梅市の北東部、成木1丁目にある安楽寺は真言宗の寺院で、境域が都史跡に指定されています。寺の縁起では、奈良時代の和銅年間(708~715)に行基が軍荼利明王像を、当地に安置したという古い由緒を伝えます。
現在の安楽寺は南に明るく開けた丘陵斜面の中腹に、大きな屋根をのぞかせています。前面に都指定天然記念物の大スギ、周囲には畑地、疎林、墓域などがあり、背後は丘陵のスギ林に続きます。静かで環境の変化に富む山里の背景は、多くの野生生物の存在を予感させます。春の午後、寺の周囲の林ではメジロやシジュウカラが囀り、本堂の周辺をツバメが飛んでいました。
社寺の境域や周辺に、宗教的な理由から残された林を社寺林と呼ぶことがあります。社寺林には、その地域に昔から生息する動植物や、失われた景観をしのばせる面影などが残され、学術的に注目される場合もあります。原生的な自然状態が残されなくても、都会に緑の島のように存在する社寺林や墓域が、地域の自然環境の変化を知る手がかりにもなり、人と自然が接する場にもなり得ます。安楽寺周辺の環境が、今から1300年前の自然状態を保っているわけではありません。しかし、昔からこの境域に向けられた宗教心が、今の自然環境や生活環境に何らかの形で反映しているようには思えます。往時の環境だけでなく、宗教心を想像することもできそうです。
安楽寺へは成木1丁目バス停から徒歩5分です。
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