カッツーン! カッツーン! 切れのよい斧の音が、 向こう谷へこだまする。 若いきこりが山の斜面に足をふんばって、 一心に杉の木を伐っているのだ。
ドッサーン! 木が倒れるたびに暗い杉林は、 ぽかりと明るくなっていく。
「ふう! 腹がへったなぁ。 昼にすべぇ」 きこりは、 杉林の端にあるひときわ大きな杉の根本に腰をおろした。 大きなめんぱをひろげて、 麦めしを口に入れようとした時だった。
「ガッハッハッ・・・・・・」 とつぜん、 どこからかものすごく大きな笑い声。 びっくりしてあたりを見まわしたが、 だれの姿もない。 再びべんとうを食べようとすると、
「ガッハッハッハッ・・・・・・」。 どうやら笑い声は、 頭の上の方から聞こえる。 おそるおそる杉の木を見上げると、 てっぺん近くの枝に何者かがゆうゆうと腰かけている。 なおよく見ると、 なんと顔が真っ赤で、鼻がスリコギみたいな天狗が、ぎらぎらした目玉で見下ろしているではないか。
「うわっ! て、 天狗様だぁ!」 きこりはべんとうを放り出して逃げ出した。
次の日、 きこりはこわごわ山へのぼっていった。 昼までは、 何事もなく仕事を終え、 さて、 べんとうを食べようとすると、
「ガッハッハッハッ・・・・・・」。 そして、 その次の日も・・・・・。 たまらなくなったきこりは、 神主のところへ飛んでいき、 しかじか・・・・。
「そうか、 そうか、 天狗様とな。 やはりあの山には天狗様がござらっしゃったか。 あの大杉は、 天狗様のお気に入りの木なのじゃろう。 あの木は伐ってほしくないにちがいない。 だからお前をおどかしたんじゃよ。
よし、 わしが話をつけてやろう」 神主は、 きこりといっしょに大杉のところへくると、うやうやしくのりとをあげた。
「天狗様、 もうしわけなかっただ。 この木は伐らねえようにするから、 もうおどかさねえでくだせえまし」 そういうと、 大杉にしめなわをかけた。 すると、 次の日から、 けろりと天狗はあらわれなくなったという。