むかし、河辺に嘉七という男が、女房とふたりで住んでいた。
嘉七は、たいへん器用な男で、かじ屋もすれば釣りもうまい。 とくにキツネやムジナ捕りの名人だった。
嘉七は、鉄砲を使わず、スルメをふたつに折って中に火薬をつめた「スルメ爆弾」を使ってキツネやムジナを捕った。
スルメ爆弾を、キツネなどの穴のまわりにまいておく。 すると、それを食ったとたん、口の中でバーンと爆発するという、なんともむごいやり方だった。
キツネもムジナも、嘉七の手にかかっては、根絶やしになりそうだった。
ある年の寒い夜、嘉七がいろりで酒を飲んでいると、裏口で声がした。
「もし、嘉七さん、おらたちは、長岡山のキツネ一家でごぜえます。 どうかスルメ爆弾だけはやめてくだせえまし。 お願いでごぜえます。 このままだと、おらたち一族は、一匹もいなくなってしまいます。」
その声は、ほんとうに悲しそうで、さすがの嘉七の胸もすこし痛んだ。
「ふん、それじゃ、スルメ爆弾だけはよしてやるよ。」
嘉七は、思わずそういってしまった。
それから嘉七は、約束をまもってスルメ爆弾はやらなくなった。
だが、日がたつうち、嘉七はまたキツネが捕りたくてたまらなくなってきた。 キツネの毛皮は、良い値で売れるからである。
「あにもスルメを使わなきゃ、いいだんべ。 約束をやぶったことにゃならねえ。」
嘉七は、スルメのかわりに油揚を使うことを思いついた。
ある日、嘉七は、油揚に火薬をつめて、いくつもつくってお膳の中に入れておいた。
すると、くいしんぼうの女房がそれを見つけた。
「あれま、こんなところに稲荷(いなり)ずしなんぞ、かくしておきやがって。 亭主のやつ、ひとりで食おうと思ってるだな。 そうはさせるもんか。」
女房は、さっそくひとつパクリ。
ババーン! 女房のあごの骨は、あっというまにくだけてしまった。
河辺のかじやの嘉七のかかは
火薬にかかとをかじられて
かいー、かいーとかけまわる
と、いうはやし言葉にされてしまったという。