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	せっかちな兄は、もう そそくさとカゴを背負(セオ)って出かけようとしている。
	
	「おっ母(カア)、茶なんか飲んでたら、おてんとうさまが頭の上にあがっちまうよ。」
	
	「でもお前、朝茶だけは飲んでいくもんだよ。」
  
	「そんなあついもの飲んじゃいられねえよ。  じゃ、おら先に行くぞ。」
	
	弟は、ゆっくり朝茶を飲み、梅干(ウメボシ)まで食った。
	
	一方、先にでかけた兄は、いつまでも弟がこないので、山道の途中の大きな木の下でひと休みした。
	
	すると、なんだか急に眠くなってきた。  つい、うつら、うつら。
	
	そのうち弟がやってきた。  木の下で眠りこけている兄の顔を見てびっくり、血の気が失せてまっ青なのだ。
	
	そっとあたりを見まわすと、大木の上から大蛇(ダイジャ)がらんらんと光る目で見下ろし、なまぐさい息をふきかけているではないか。
	
	(さては、兄さの生き血を吸おうとしていたんだな。)
  
	弟は、いそいで兄を起こした。
	
	「おそいじゃねえか。  何をしてただあ。」
	
	「おら、おっ母にいわれたから、茶を飲んできただよ。」
	
	これを聞いた木の上の大蛇。
	
	(なに?  蛇(茶)を飲んできただと?   この男、蛇を飲むとは恐ろしいやつ。)
	
	大蛇は、そう思ってするするとどこかに行ってしまった。
	
	「朝茶は、魔よけだから、どんなに早く出かけるときでも飲んでいくもんだよ。」
	
	と、いわれている。
	
朝、緑茶のいっぱいは、心も体もしゃっきりと目ざめさせてくれる。