雨がふると、魚がよく釣れるという。 今井に住んでいたある兄弟は、雨のふる夕方、川へ釣りに出かけた。 ほんとうは、行ってはいけないといわれていたのだけれど。
魚は、おもしろいほどかかって、びくがいっぱいになった。
兄弟は、暗くなりはじめた細道を帰ってきた。
と、兄は、弟によばれた気がしてふりかえった。
「あんだよ。」
弟は、きょとんとしている。
「おら、あんにもいわねえよ。」
「だって、今、兄ちゃん、て。」
「そら耳だんべ。」
しばらく行くと、「あんだよ、兄ちゃん。」
こんどは、弟がいった。
「おら、よばねえぞ。」
「じゃ、だ、だれが・・・・・。」
ふたりは、顔を見合わせた。 じっと顔を見ているうち、同時にさけんだ。
「うわっ、よしぼうにキツネがとっついている!」
「兄ちゃんが、キツネになっちまったあ!」
ふたりは、びくも釣りざおもほおりだして畑道をかけだした。
ちょうど父親が、帰りのおそいふたりを心配してさがしにきたところだった。 父親は、大声でかけまわるふたりに声をかけたが、まるで耳に入らないようすだ。
「いけねえ。 こりゃ、悪いキツネにとっつかれちまったらしいぞ。」
父親は、大いそぎで家にもどると、ほうろくをつかんで出てきた。 そして、「キツネだ、キツネだ」とかけまわるふたりの頭に、スポリとかぶせた。
すると、あんなにはねまわっていた兄弟はぺたりと土の上に座りこんでしまった。
「やれやれ、夕方、釣りに行っちゃいけねえっていったのにいうことをきかねえから、キツネにとっつかれちまったんだ。 もう、けっして行くんじゃねえぞ。」
「うん。」
兄弟は、頭にほうろくをのせたまま、おとなしく家に帰ったそうである。