ある秋の夕暮れ、沢井の原というところのイシというおばあさんは、水汲みに沢へおりて行った。 この沢の水は、飲み水から炊事、洗濯まで使う大切なものなので、おばあさんはいつもまわりをきれいに掃除し、よごさないように気をつけていた。
ところが、その大切な水場で、五、六匹のオオサキギツネの親子が、水浴びをしているのではないか。
「この性悪ギツネめ。 水汲み場をよごすじゃねえ。 あっちへ行け!」
おばあさんは、思わず石を拾って投げつけた。
カツン! 石は、一匹の子ギツネにあたり、死んでしまった。
その夜、夕食がすんで、「そろそろ寝ようかな」とおばあさんが思ったとき、
「キュン、キューン、キュン・・・・・。」
どこかで悲しそうな泣き声がする。 耳をすますと、どうやら沢の水汲み場の方らしい。 おばあさんは、はっとした。
水汲み場を荒らされたくやしさに、死んだ子ギツネをそのままにして帰ってきてしまったことを思いだしたのだ。
「あらは、母ギツネが子ギツネの死を悲しんでないているのにちげえねえ。 すまねえことをしちまったな。」
つぎの朝、おばあさんは、子ギツネをそばのきの根元にうめて、油揚げを供えて弔ってやったということである。