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	ある日、ハヤやヤマメをびくいっぱいに捕った。
	「さて、そろそろ帰るとするべえ。 今日も大漁だわい。」
	
	ほくほくしながらひとりごとをいっていると、うしろでバシャ、バシャと水音がした。
 	
	「だれか、いるのかい?」
 	
	首をのばして音のする方を見た。 でも、だれもいない。
	
	「そら耳かなあ。」
	
	そう思って、びくを持ちあげると、あんなにあったハヤもヤマメも一匹もいなくなっていた。
	
	「ありゃ、川天狗さまにやられたあ!」
	
	その男は、へなへなと座りこんでしまった。
	
あまり魚をたくさん捕るので、川天狗が怒ってとりかえしたのだそうである。