むかし、沢井の多摩川で魚捕りをしていた男がおった。 その男は、投網うちの名人で、いつもたくさん捕るのだった。
ある日、ハヤやヤマメをびくいっぱいに捕った。
「さて、そろそろ帰るとするべえ。 今日も大漁だわい。」
ほくほくしながらひとりごとをいっていると、うしろでバシャ、バシャと水音がした。
「だれか、いるのかい?」
首をのばして音のする方を見た。 でも、だれもいない。
「そら耳かなあ。」
そう思って、びくを持ちあげると、あんなにあったハヤもヤマメも一匹もいなくなっていた。
「ありゃ、川天狗さまにやられたあ!」
その男は、へなへなと座りこんでしまった。
あまり魚をたくさん捕るので、川天狗が怒ってとりかえしたのだそうである。