とらさんは、日の出村に住む狩人である。 猪とりの名人なので、猪とらさんといわれていた。
ある秋、とらさんは御岳山にのぼった。 あちらこちらと山を歩きまわったが、どうしたことかウサギ一匹捕まらなかった。
しかたなく、富士ヶ峰(ふじがみね)の丸山というところまで帰ってきた。 杉木立の下に墓地があった。
ふと見ると、墓石のかげに、一匹の狼がうずくまっている。
「しめた。 狼でも獲物にすべえ。」
とらさんは、鉄砲をかまえるやいなや、
ズダーン! その一発は、みごと狼に命中した。 狼にかけよろうとしたときだった。
墓石だとばかり思っていたまわりの石が、なんと狼に変わっているではないか。
「な、なんだ、こりゃ!」
狼たちは、らんらんと目を光らせ、とらさんをにらみすえている。 恐ろしさにとらさんは、腰をぬかさんばかり。
「お、おたすけ・・・・・。」
とらさんは、ころがるように御師の家にかけこんだ。
そのとたん、グワラ、グワラ・・・・・。
ものすごい山鳴りがはじまった。
「じ、じつは・・・・・。」
とらさんは、御師にわけを話した。
「とんでもないことをしましたね。 狼は、山の守り神、それを鉄砲で撃つなどもってのほか。 しかたがありません。 狼をねんごろに弔ってやり、怒りをしずめてもらいましょう。」
ふたりは、急いで狼を弔い、御師は山をしずめる祈とうを行った。
すると、だんだんに山鳴りはおさまったということである。