多摩川に、夜霧がたちこめると、まぼろしのような人形舟があらわれる。
重病や災難にあった者は、紙の人形で体をなでて多摩川にながす。
霧の夜、人形は、まぼろしの人形船となって多摩川をくだっていく。 この舟を見た者は、けっして近づいたり石を投げたりしてはいけない。 ふりかえらずにいそいで帰れ、といわれている。
ある夜、釣りをしていた男の前を、人形舟がゆっくりと流れていった。 男は、それでも平気で釣りをしていた。
ところが、それからまもなく、変なことを口走るようになって、気がふれてしまった。
そのころ、青梅のある娘は、気が狂(クル)っていたのだが、すっかり直ってしまったそうである。