Ome navi
Aoume
  • 更新日 2011年10月20日
  • 八百比丘尼やおびくに

    ここは北陸、 若狭国。 日本海に面した小浜というところに長者の家があった。 ある日のこと、 長者は海に出て釣り糸をたれていた。

    しばらくすると、 糸の先にすごい当たりが伝わってきた。

    「おっ、 こりゃ大物だぞ!」 長者はいきおいこんで竿を上げた。 すると、 なんとも奇妙な魚がかかっていた。

    大きさは、 赤ん坊ほどもあり、 頭はまるで人間のよう。 うっすらと黒髪まではえている。 だが胴体は魚であった。 長者は、 あまりの気味悪さに針をはずすのももどかしく、 その魚を浜辺に捨てて帰ってしまった。

    そこを通りかかったひとりの漁師。 この奇妙な魚を見つけた。

    「おや? 珍しい魚がいるもんだ。 長いこと海へ出ているが、 こんな魚は初めてだ。 どれ、 少し焼いて食ってみるかな」 漁師は、 魚の肉を少し切りとると、 アワビの貝ガラに入れて漁師小屋へ持って帰った。

    肉は、 雪のようにまっ白で、 こんにゃくのようにぷよぷよしている。

    たき火をかき立て、焼こうとした時だった。

    「じい、 今日は、 なにが釣れた?」 小屋の戸を押して入ってきたのは、 長者の娘だった。 まだ7歳のそれは愛くるしい少女である。 娘は、 この漁師を 「じい、 じい」 といって、 毎日のように遊びにきていた。

    「今日は、 まだ何も釣れねぇ。 変な魚の肉をとってきただけじゃ」

    「あっ、 そ、 それは・・・・・・」

    漁師がとめるまもあらばこそ、 娘は、 ペロペロと白い肉を食べてしまった。

    「じい、 うまかったぞ。 こんなうまい魚食べたの初めてじゃ」 娘は、 桃色のほっぺたにえくぼを見せて笑っていた。

    じつは、 この奇妙な魚が人魚だったのだそうだ。 そのため、 この娘は、 800歳の長寿を保ち、 八百比丘尼といわれた。 120歳のとき出家し全国を遊行した。

    塩船観音寺は、 この八百比丘尼が、 大化年間(645~650) に開山したものだという。