ある日、御岳の御師のところに、ひとりのきこりがとびこんできた。
「た、たすけてくだせえ。 山で杉伐りをしていたら、 天狗さまがでてきてガハ、ガハ笑うだよ。
『天狗さま、悪いことはしませんから、どうか笑わねえでくだせえ』 っていうと、 どこかへ行ってしまうだが、すこしたつとまた出てきてガハ、ガハ笑うだよ。 もう気味がわるくて安心して木も伐れねえだ。 どうか出てこねえように拝んでくだせえ。」
「そうか、それはきのどくに。 では、わしが天狗さまによくたのんでやろう。」
御師は、すぐに拝んでやった。
すると、やっと天狗は出てこなくなったそうである。
また、ある朝きこりが、御岳山にのぼっていくと、どこかでドカーン、ドカーンと木を伐っている音がした。 耳をすましていると、こんどはザザーンと木の倒れる音もした。
でも、だれも木を伐っているものはいない。
「天狗さまだな。 でてきて笑われるかな。」
そう想いながら、山道をのぼっていくと、案の定、山の上のほうで、「ガッハッハッ・・・・」という笑い声がしたそうである。