Ome navi
Aoume
  • 更新日 2011年10月20日
  • 男井戸女井戸おいどめいど

    むかし、 弘法大師は諸国を巡行されていた。 ある日、 大柳にさしかかった時、 大師はひどくのどがかわいた。 見ると、 そばに一軒の農家があった。 庭では、 百姓の夫婦がせっせとムシロに栗を干している。

    「もし、 旅の者だがひどくのどがかわいてこまっております。 水をいっぱいくださらんか」

    「へぇ、 そりゃきのどくだ。 ちょっくらまっててくだせぇまし」

    百姓の夫婦は、 家の裏にあった手桶をひとつ持つと、 ふたりそろって下の畑の方へおりていった。

    だが、 ふたりはなかなか帰ってこなかった。 かなりたって、 ふたりでひとつの手桶をさげ、 ひたいに玉の汗をうかべながらもどってきた。

    「さあさあ、 くみたての水だ。 たくさん 飲んでくだせぇ」

    おかみさんは、 ハアハア肩で息をしながらヒシャクをさし出した。

    「もし、 お前さん方、 ずいぶんひまがかかったようだが、 どこから水をくんできなされた」

    「へぇ、 このへんにゃ井戸がないから、 崖を下りて川までいってきましただ。 なにしろ坂がきついもんで、 おっ母ひとりにやらせるのは、 かわいそうでな」 おやじは、 やさしくおかみさんを見ている。

    「そうっだったのか。 わざわざわしのために・・・・・」 大師は、 やさしい夫婦の心に感動した。 そして、 畑のすみへいくと、 もっていた杖をスポリと土につき立てた。

    すると、 ホコホコと澄んだ水が湧き出した。 そのそばにもう1か所スポリと杖をつき立てると、 そこからもホコホコと・・・・・。

    「男の井戸と女の井戸じゃ。 これからも仲よく暮らしなされ」 大師は、 そういうと、 どこへともなく立ち去っていったという。