Ome navi
Aoume
  • 更新日 2011年10月20日
  • 岩井堂の観音様いわいどうのかんのんさま

    「ちっきしょう! どうしておれは、 こうついてねえだんべ。 あの賭けさえ当たってりゃ、 遊んで暮らせるほど金が入ったのによう!」

    むかし、 ひとりの男が顔を真っ赤にしながら山道をくだってきた。 見れば、ふんどしひとつの素っ裸。 山の上でひらかれているバクチ場で、あり金残らずすってしまったのだ。

    「ヘヘヘ、 ヘックション! ちぇっ、 もうけたのは風邪だけかい。 まったくいまいましい! ううむ、 どうにも腹の虫がおさまらねえな」 くやしまぎれに石ころをけとばしてみても、コツンと音がするばかり。

    ふとみると、 道の向こうに洞窟があって小さな祠がまつってある。 祠の中から2寸ばかりの観音様が静かな微笑をうかべてのぞいていた。

    「やい、 おかしいか。 ぶざまなおれが、 そんなにおかしいのかよ!」 男には、 観音様のほほえみまで、 しゃくの種。

    「なんだ、 こんなもの。 こうしてくれるわ!」 男は、いきなり祠から観音様をつかみ出した。 そして、 近くを流れる沢の中へ、 チャポン!

    観音様は、 小さな水音をたてて沈んでしまった。

    それから、 どのくらいたった時だろう。 ここは、 荒川の下流。 もう江戸湾も近いところだ。 ひとりの漁師が投網を打っていた。

    「よいしょ、 こらしょ」 漁師は、 重い網を引き上げた。 ピチピチと魚がはねている。 と、 魚の銀鱗とはちがう、 きらきら金色に輝くものがある。

    「やや、 こりゃ、 小さいが金の観音様じゃねぇか」 漁師は、びっくりぎょうてん。

    すぐにもって帰り、 近くの寺の坊さんにみせた。

    「なんと、 これはありがたいことだ。 きっと観音様が、 ここに祭ってほしいと網に かかったにそういない。 ありがたい、 ありがたい」

    賭けに負けた男が沢に投げこんだ観音様は、 流れ流れて浅草で拾われたのだという。

    それが、 浅草寺の守り本尊、 1寸8分の金の観音様だそうである。

    岩井堂