柚木三丁目阻端沢(ソバサワ)の山の神の右側に深い淵がある。
むかし、この淵に一羽のたくましいにわとりが住みついていた。
コケコッコー!
その声は、朝夕、柚木の集落にひびきわたり、人びともこのにわとりを憎からず思っていた。
ヘビやマムシもとってくれるし、きちんと時をつげてくれるから。
ところがあるとき、ふっとにわとりの姿が消えた。
「どこへ行っちまったんだべえ。」
人びとは、それとなくにわとりの行方をさがした。
そのうち根ヶ布の方からきた人が、こんなことをいった。
「このあいだからよ。 天寧寺(テンネイジ)の池へ、でっけえにわとりがあらわれてよ。 すごい声で鳴いてるだよ。」
「へえ。 もしかしたら、あのにわとりかもしれねえぞ。」
柚木のある人が、わざわざ根ヶ布の天寧寺までにわとりをたしかめに行った。
「こりゃ、おったまげた。 たしかに山の神のところにいたあのにわとりだよ。」
にわとり淵の奥には、深い洞窟がある。 その洞窟は、天寧寺までつづいていて、にわとりはそこを通って天寧寺の池に出たのだろうといわれている。