JR青梅線、宮ノ平駅から東に五百メートルほど行った青梅街道の北側に小さな井戸がある。 現在は住宅と住宅のわずかな隙間(スキマ)にかろうじて残されているが、むかしは、うっそうとした林の中だったはずである。
(ここは昔、盾の館があった。)
この井戸は「首洗い井戸」とよばれている。 まわりを玉石で囲み、縦一二五センチ、横八五センチほどの長方形である。 すぐ上に大きな樫(カシ)の木があり、今も澄んだ水をたたえているが、ぶきみな伝説をもっている。
「首洗い井戸」は、戦いのときに討ち取った敵の首を洗った井戸ではないか、といわれている。
西方一キロに辛垣城(カラカイジョウ)のやぐら台などがあり、盾の館は東を守る重要な砦であった。
永禄(エイロク)六年(1563年)三田氏は、北条氏との戦いに敗れさった。
青く澄んだ水の底に、中世の悲話(ヒワ)が秘そんでいるかのようである。