成木の高土戸というところに、とても身の軽い男がいた。 あまり身が軽いので飛助といわれていた。
飛助は、あっというまに屋根に登り、高い木も平気のへいざだった。
「おうい、飛助、柿をもいでくれ。」
「へーい!」
「おうい、飛助、屋根にタコがひっかかった。 取ってくれ。」
「あいよ!」
「飛助、何が見える?」
「下の和尚さんが、こっちへくるぞ。」
というぐあいに、飛助は村人に重宝がられていた。 また、それだけではなく、飛助には特殊な能力がそなわっていた。
屋根にのぼって見ているわけでもないのに、
「あっ、小曽木の名主さんが、峠をのぼってくる。」
などといった。
「うそこけ、見てもいねえのに。」
「だって、おらにはわかるだもの。 うそじゃねえよ。」
そんなやりとりをして、しばらくすると、ほんとうに小曽木の名主がやってきた。
「お前ん家の今夜のめしは、大根の入ったおじやだな。」
そんなこともいった。
「においでもかいだのか?」
「いいや、ふたを取ってもみねえよ。」
「じゃ、さっき、おっ母が大根を切っているのを見たんだべ。」
「それも見ねえよ。 そんなことしなくとも、おらにゃわかるだよ。」
「よし、そんじゃ、この中に何が入ってるかあててみろ。」
村人は、飛助にかくして鍋の中にいろいろなものを入れてさしだした。
「ええと、ごぼうに、豆に、なっぱに、あ、それから芋(イモ)のしっぽも入ってらあ。」
飛助は、全部正確にあててしまった。
今でいうと、超能力少年であった。 文明の利器のなかった時代、飛助は神がかりか、魔法使いのように思われたことであろう。