むかし、御岳に梅本坊(ウメモトボウ)という悪僧(アクソウ)がいた。
物を盗むは、女を犯すは、あまりの悪行(アクギョウ)ぶりにお上(カミ)から「捕らえよ。 殺してもよい」 という触れ状がまわった。
村人たちは、手に手に鎌(カマ)やなたを持って梅本坊をやっつけようと立ちあがった。
沢井村の福田五郎左衛門(フクダゴロウザエモン)は、先祖伝来の刀を持って先頭に立っていた。 村人たちは、じりじりと梅本坊を追いつめて行った。 多勢に無勢、さすがの梅本坊も、あちらこちらと逃げまわるうち、川向こうの檜沢(ヒノキザワ)で包囲された。
うしろは崖、前には憎しみのこもった目でにらみつける村人たちが、いく重にもとり巻いている。
「梅本坊、もう逃げられんぞ。 覚悟しておなわにつけ!」
「なにを、こしゃくな、百姓どもめ!」
梅本坊は、金剛杖(コンゴウツエ)をふりまわし、阿修羅(アシュラ)のように暴れまわった。
「おう!」
「やっ!」
ついに梅本坊は追いつめられた。
「たあっ!」
五郎左衛門は、気合をこめて刀をふりおろした。
「ううっ!」
梅本坊は、肩深く斬りさげられ、息絶えてしまった。
「おうっ!」
村人たちは、大よろこび。
ところが、その後、福田一族につぎつぎによくないことが起こった。
「これは、悪人とはいえ、もしかしたら梅本坊のたたりかもしれない。」
と、いうことになって、梅本坊を「安心明神」と名づけてねんごろにまつった。 すると、たたりもなくなり、安心して暮らせるようになったそうである。