二俣尾の中宿にあるのは、かぎの手地蔵と呼ばれている。 かぎにまがっている道の片側に立っていて、いまでも花やおさい銭がたえない。
ある日、成木の方から用事で出てきた男がここを通りかかった。
「あっ、いけねえ、銭を持ってくるのを忘れちまった。 今からとりに帰ってたんじゃ、日暮れまでに帰れねえ。 どうすべえ。」
男は、困ってしまった。
ふと見ると、地蔵の前におさい銭がのっていた。 ちょうど買物をするだけあった。
「お地蔵さま、まことにすまねえだけんど、ちょいとおさい銭を貸してくだせえ。 きっと返しますから。」
男は、おさい銭を借りて、買物をすませた。
いく日かして、男は借りた銭とお供え物を持ってやってきた。
「お地蔵さま、ありがとうごぜえました。 お地蔵さまの銭で薬を買ったせいか、女房の病気がすっかり良くなったですよ。 ほんとうにありがとうごぜえました。」
地蔵の顔が、にっこり笑ったようであった。
この地蔵は、道行く人の安全を守っているといわれている。