むかし、 ある大晦日の夜のことであった。 日影和田のある家では、 座敷にたくさんのお膳が並べられていた。
「あしたの元旦には、 みんなそろってお祝膳につけるように」と、 だんなから子ども、作男(さくおとこ)などの分までごちそうを用意しておいたのだ。
夜もふけたころ、 作男は、座敷から変な物音が聞こえてくるのに気がついた。
そっと座敷をのぞいてびっくり。 なんと、タヌキが並べたお膳の前でちゃっかり座って飲み食いしているではないか。
「こ、こりゃ、えらいこっちゃ。 せっかくのごちそうをタヌキなんぞが・・・・・」
作男は、大あわてでだんなを起こしにいった。 だんなもびっくりしてとんできた。 ふたりで、 なおよくようすを見ると、だんなの席には大きなオスのタヌキが、おかみさんの席には、 小太りのメスのタヌキが、 ほかの席にも、 子どもや作男に似たタヌキが座っている。
「だんな、 ふたりでとっつかまえちまいましょうぜ。 おれたちのごちそうをみんな食われちゃかなわねぇよ」 作男は、 腕をまくり上げて座敷へ飛びこみそうになった。
「まあ、 待て。 そっと食わしておけ、 ほれ、 あんなに楽しそうじゃないか。 わしらの分は、 明日あらためて作るとしよう」 だんながそういうので、 作男もだまってみているよりほかはなかった。
タヌキたちの宴会は、 ひと晩中続き、 なにやらズンズク、ズンズクといいながら腹づつみを打っているようだった。
さて、 このことがあってから、 この家では、 いいことばかりが続くようになった。 米はたくさんとれる、 蚕も良いのができる、 山の木も高く売れる・・・・・。
そして、 どんどん金持ちになり、 だれいうともなくズンズク大尽といわれるようになったということだ。