Ome navi
Aoume
  • 更新日 2011年10月20日
  • 馬引沢峠の埋蔵金まひきざわのまいぞうきん

    むかし、雨がそぼふる馬引沢を、数頭の荷駄(ニダ)が大久野方面からのぼってきた。  荷駄は、ほかに数人の侍(サムライ)が警護(ケイゴ)してした。

    雨は、何日もふりつづいていたので、道は荒れ、いたるところに水がふきだしていた。

    荷は重く、侍も人夫もへとへとに疲れていた。  二度、三度とぬかるみに足をとられ、そのたびに人も、馬も力をふりしぼった。

    すこしのぼると、こんどは道がくずれ、荷駄をのみこまんばかり。  まさに、泥まみれの道中であった。

    峠にさしかかったとき、あたりはうっすらと夕やみがせまっていた。

    もうひと息で頂を越せるというとき、道に深い裂け目ができていて、にっちもさっちもいかなくなった。

    侍たちは、しかたなく人夫に荷をおろすように命じた。  どこか適当な場所に、ひとまず荷をかくし、天気の回復を待って出なおそうという相談が、密かにまとめられた。

    人夫をせかせ、道からすこし入ったやぶの中に穴を掘らせ、つぎつぎと荷を埋めた。

    雨は、ようしゃなくふりつづいている。

    さいわい人通りもなく作業はおわった。

    だが、人夫たちがほっとしたのもつかの間、侍たちは、いきなり刀をぬくと人夫たちに斬りかかった。  武器も持たない人夫たちは、あっというまに全員斬り殺されてしまった。

    荷の秘密がもれるのを恐れたのだ。

    その上、侍たちのだれからともなく、お互いに斬りあいまではじまった。  侍たちは、今埋めたばかりの荷をひとりじめしたくなったのだ。  荷の中身は、金貨や銀貨であったという。

    やぶの中には、地獄絵(ジゴクエ)のようなありさまとなった。  傷つき、死に、そして、かろうじてひとり生き残った侍も重傷を負っていた。

    一夜明け、里人に助けられた侍は、故郷へ帰って行った。

    何年かすぎた。

    ひとり生き残った侍は、傷をなおし、従者(ジュウシャ)をつれて馬引沢峠へとやってきた。

    今日こそ数年前に埋めた宝をひとりじめできると、内心(ナイシン)ほくそえみながら・・・・。

    ところが、歳月(サイゲツ)は、侍の思いどおりにはさせてくれなかった。

    かつて、修羅場(シュラバ)と化したやぶも、金銀を埋めた林の中も、草がおい繁(シゲ)り、どこがどこだかわからなくなっていたのだ。

    雨中、一度とおっただけの道。  侍は、記憶をたよりに、なんども場所をかえて掘ってみたが、ついに見つからなかった。

    死んだ人たちの霊が、探させなかったのか、あまりみにくい人間の相克(ソイコク)を見ていた草木の精が、かくしてしまったのか・・・・・。

    いずれも、明確なものではない。

    と、している。