沢井の横尾子に、大松がある。 むかし、ここに、都を追われた位の高い僧が住んでいた。 都で事件をおこし、遠い武蔵野の果てに追放されたものであろうか。
僧は、小屋を建てて、庭に松を植えた。 松はぐんぐん大きくなり、傘状に枝を広げた大木になった。
僧は、毎日この松を見上げて祈った。
「どうか、一日も早くゆるされて、都へ帰れますように。」
松は、僧の祈りを天にとどけえるかのようにさらに大きくなったが、都からの便りはなかった。
失意の日々を送るうち、とうとう僧はここで亡くなってしまった。
ある秋の日、そばに住む百姓が、畑のじゃまになると、松の一枝を伐り落とした。
するとその晩、百姓は、いろりの火がはねて大やけどをしてしまった。
「あの松には、坊さんのうらみがこもっているのかもしれねえ。 枝を伐るのはよすべえ。」
その後、どんなに松が枝を広げても、じゃまになっても、だれも枝一本伐る人はいなかった。
そして、いつしか聖松とよばれるようになった。 最近、松の根元から、僧の墓と思われる石碑と五輪塔(ゴリントウ)の頭と思われる石が掘りだされた。